2話 青春に問題発生

──「私は、匠のことが好きなの……」




 昨日の事なのだが、どうしても頭から離れない。


 今日は9月1日。つまり始業式の日なのだが……。どうしてもソワソワして仕方がない。


 思い出す度に、あいつの涙目になっていながらも無理して笑顔を作っていたあの顔が、どうしても俺の心をチクリと刺す。




「どんな顔して合えばいいんだよ……」






「おはよう匠君……」


 そう話しかけてきたのは、同じクラスの岡田花蓮おかたかれんだ。俺の隣の席で、1年の時も同じクラスだった。ダークブラウンのボブカットで、背は少し低い。目鼻立ちは普通に整ているというか、可愛い。一般的な学校なら一番になるぐらいの美貌なのだが、この学校では普通ぐらいにしかモテていない。そして俺は花蓮に……。




「……おはよう花蓮」


「どうかしたの?顔色悪いよ?」


「悪い、ちょっと考え事してた」


「新学期早々考え事って、早野くん大丈夫?」




 心配そうに話しかけてくれたのが、2年4組一の美少女。というか、学年1の美少女、伊藤花いとうはなである。透き通るような黒色の長い髪で、背は高くも低くもない男の理想。あもりにも整いすぎた顔立ちは、数多の男たちを死地に送り込んだ。言うまでもなく彼女は学年1、いや学校1にモテる。花のせいでほかのやつらがモテないようにみえていたのだ。同じく彼女も1年の時も同じクラスだった。




「いや、大丈夫」


「絶対嘘でしょ!何か隠し事してるんでしょ?ほら、言ってみて?」


「いや、だから大丈夫だって……」




「夏休みどうだった?」


「昨日まで課題に追われてたよー」


「わかるわかる、私もそんな感じ」




 りせが、教室の横を通り過ぎた。友達と楽しそうに会話をしていた。


 よかった。何ともなさそうだな…。




「どうかしたの?匠君」


「あ、いや、なんでもない」




「はーいみんな席に着いて、チャイムなるよ〜」




 そう言いながら教室に入ってきたのは担任のみなみ世利奈せりな先生だ。この先生は、凄い信頼もあって、生徒に人気の女性教師だ。が、この先生は……




「始業式の後席替えするんだけど、自分たちで適当に決めといて〜。私は眠いから寝とくから。口出しなしだし、ちゃらでいこうぜ!ちゃらで」


 そう。この先生は、テキトー過ぎるのだ。校長も頭を抱えるほどらしい。




「「「えー」」」




 そりゃそうだ。こうなるのは目に見えていた。てか、毎回毎回この反応をするクラスのやつらも、どうかしてる。優しいのか?




「あっ、もう始業式の時間だは。みんな体育館に移動して〜」


「「「えーーー」」」




 もう、この先生は相変わらずだ。






 始業式が終わり、無事席替えも終わったのだが……


 なんというくじ運の好いことか、俺は窓際からの2列目の最後尾という最高のポジションを手に入れた。そこまではよかったのだが、視線が痛い…。というか、耳が痛い。




「おいおい、あいつずるくね?」


「だよな、ちょっと成績いいからって許されると思うなよ!」


「陰キャのクセに……」




 おいおい聞こえてるって……


 まぁ、理由はあからさまだ。俺の左隣が花なのだから。だけどな、俺別に花のこと好きとかじゃ無いんだけどな。俺が気になっているのは……。




「また隣になったね!匠君」




 そう、花蓮だ。実は入学してから、1番目に仲良くなった友達で、とても相性がいい。


 だから、とは言わないが俺は花蓮に徐々にひかれていった。




「うん、よろしく」




 うーん、可愛い。今すぐにでも彼女にしたい。




「私は初めてかな?」




 少し恥ずかしそうに話かけてきたのは、学校1の美少女花である。


 いや、花さんや。そんなに気安く話しかけたら……。




「あいつ、隣になった上にお喋りなんかしてやがる」


「羨ましいー、じゃなくて生意気だな」


「そうだな」


「裁判長判決を」


「有罪ギルティー」


「よし、殺るか」


「そうだな」


「どう殺る?」


「埋めよう」


「そうだな、それがいい」




 いや、聞こえてるよ?てか、埋めるって何?


 ナンデソンナハッソウデキルノ?タクミクンコワーイ。




「そ、そうだね、よろしく」


「うん、よろしくね」




 席替えが終わり、クラスはそれぞれで盛り上がっていると、急に南先生が……。




「よ〜し、んじゃもう帰るか」


「「「えーー!?」」」




 いや南先生、いくらなんでも気まぐれすぎんだろ。てか、勝手に帰っていいの?






 その日の放課後、教室での出来事である。




「陽菜ちゃん、ちょっといい?」




 そう話しかけたのは花蓮である。




「どうしたん?もしかして彼氏でも出来たん?」


「いや、そうじゃないんだけど……近いかも」


「じゃあ告られたん?」


「そうじゃなくて……」


「分かってるよ、早野のことでしょ?」


「……うん」




 紹介し忘れてたけど、陽菜っていうのは、がみ。金に近い茶色の髪を水色のゴムでポニーテールにしている。目鼻立ちは整っているのだが、誰とでも仲良くでき、男からも女からも人気が高いという性格のせいか、友達どまりでモテないという感じだ。陽菜も同じクラスで、花蓮ととても仲が良い。というか、中学の時の同級生らしく、親友である。




「また隣になって、うれしー!って言うのを言いたいん?」


「それもそうだけど、そうじゃなくて……」


「それもそうなんだ…まぁいいや。それで、花のこと?」


「…………そう」


「 取られるかもってこと?それなら大丈夫なんじゃない?あの人美人さんだし、もっと上を狙ってると思うけど?」


「言い方酷いね。私の好きな人なんだよ?」


「ごめんごめん、まぁ大丈夫でしょ」


「そうなんだけど、最近妙な噂を聞いちゃって……」


「何?付き合ってるとか?」


「当たらずとも遠からずかな」


「あー、好きなんや、早野が花のこと」


「噂だけどね、そういうこと」


「まぁあれだけの美人だったら、誰でもイチコロだろうね〜」


「やっぱり私なんかじゃ無理なのかな……」


「告れば?」


「え?」


「当たって砕けろだよ!」


「フラれる前提なんだ」


「そうじゃなくて、何事もやってみないとわかんないじゃん!ってこと」


「そうだよね、頑張って見ようかな」


「よし、応援するから頑張れ!」


「うん!!」






 一方こちらは、放課後下校中の話である。




「なぁ匠〜、今日お前ん家行ってもいいか?」




 こう話しかけて来たのは、俺の親友であり、幼馴染みの上村かみむらこうせいである。黒よりの茶色の髪で、背は高い。運動神経も良く、クラスの中心になるタイプだ。こいつは、俺とは真反対みたいなかんじで、クラスでは盛り上げキャラらしい。モテはするが、彼女がいたことは1度もない。




「え〜、しゃあなしな」


「よーしじゃあゲームしまくるぞ〜」


「へいへい」




 なんかこいつは平和だよな〜。何というかすっごい楽だ。






「なぁ匠、お前今スッゲー悩み事してないか?」




 今は目的地に着きゲームをしていて、休憩をしていたのだが、不意に康晴が聞いてきた。




「いや……、別に、何も……」


「そっか、ならいいんだけどなー」


「うん」




 なんだ、なんとなくなのか?気まぐれにしては勘鋭すぎ。




「嘘ついただろ」


「へ?」


「だから、何も無いってのが嘘だろ?って事だよ」


「ほ、ほ、本当だし」


「お前まじで嘘つくの下手くそすぎんだろ」




 俺ってそんなに嘘つくの下手なのかな?そんな事ないと思うんだけどな。




「はぁー、全部お見通しかよ…。りせに告られた……」


「………………まじ?」


「…………まじ」


「付き合ってんの?」


「付き合ってない」


「じゃあ、フッたのか?」


「うん……」


「なるほどな、だからあいつあんなけ落ち込んでたのか」


「…………まじ?」


「クラスでは明るく振舞ってたけど、登校中ね……」




 こいつとりせは、家が近く一緒に登校している。つまり3人ともお近所さんだったわけだが……。やっぱ


りあの時見かけた顔は、無理をしていたみたいだ。


 言い忘れていたが、こいつとりせは同じクラスで2年6組である。




「でも、仕方ねぇだろ……だって俺は──」


「ま、いいんじゃね?」


「へ?」




 俺が全てを言いきれなかったのは、こいつが遮ってきたからである。てか、いいんじゃね?ってなんだよ。お前それでも幼馴染みか?




「お前もフラれたんだし、これでチャラだろ?」


「そうかもだけど……」


「ていうか、お前は好きな人いんだし、しゃあなくね?」


「……うん」


「逆に告らねぇの?」


「いや、フラれるし……」




 ハーーー。と長い溜息をついた康晴は、思いもよらぬことを言い出した。




「俺は、花蓮ちゃんはお前のことが好きだと思うぞ?」


「は?んなわけないじゃん。だって、あいつ可愛いし、運動もそこそこ出来るし、成績は……あれだけど、それに…………彼氏いてもおかしくないし」


「たしかに花蓮ちゃんは可愛いが、クラスでは2番目だ」


「あくまでも1番は花だといいたいのか?」


「だって花ちゃん天使じゃん?成績は学年2位、運動神経抜群、おまけに端正な顔立ち……それに花蓮ちゃんが劣っていると言いたい訳では無い。ただ、人気1位がいるから、花蓮ちゃんならお前でも行けるかもしれないってことだ。」


「なるほど……ね、ってなるわけないだろ!」


「ウケ突っ込みを1人でやってのけるとかさすがだな」


「だいたい俺は今、告白する気は無いからしないんだよ」


「そうかいそうかい。ただ、後悔すんなよ……」


「う……ん?」




 なんだよこいつ、すげぇ意味深な言い方するじゃねえか。まるで未来が見えているかのように……




「うわっ!もうこんな時間じゃん、俺そろそろ帰るは!また明日」




 時計を見ると、もう19時だった。




「また明日」




 明日、明日、明日……か、今日はりせとは会わなかったし、俺は普通に話せるのかな?




「ま、そんなことは明日考えるか」






 翌日、俺は学校に着いたのだが……。




「ナニコレ?」




 そこに入っていたのは手紙だった。しかも、なんかラブレターっぽいのが怖い。




「おはよう匠」




 急に声を掛けてきた康晴にびっくりして、咄嗟に手紙を後ろに隠した。




「おっ、おはよう康晴」


「ん?なんだ?なんかあったか?」


「なんもないなんもないなんもないなんもないなんもないなんもないなんもない」


「いや、むしろ怪しいから。もしかしてラブレターか?」


「んなわけねーだろ!」


「ま、匠がラブレター貰えるはずないもんな〜」




 たしかに康晴の言う通りだ。俺にラブレターがくるはずない。


 そう思っていたのだが……。




──匠くんへ


 放課後屋上に来てください。


 伝えたいことがあります。


 すっぽかしは許しません。


 待ってます。




「まじかよ」




 思わず声に出してしまった。


いやいや、考えろ早野匠。これは罠だ、たぶん誰かのイタズラに違いない。騙されるな、こんな目に見えた罠に俺がのるはずがないだろ。現にほら、名前を書いていない時点で怪しさMAXだしな!






 その日の放課後の屋上。そこには1人の男が立っていた。




「ほらな、やっぱりイタズラだ」




 まんまとのってやったよ畜生!でも、まさか誰もいないとは思わなかった。てっきり康晴かと思っていたのだが……。




「ほんとに来てくれたんだね……匠君」


「え?」




 声のした方に振り返ると、そこに立っていたのは




「か、花蓮……」




 まさかの展開だった。まさか花蓮に……騙されるなんて。そんなキャラじゃあないと思っていたけど、そんなこともなかったみたいだ。やっぱり女の子の考えることは分からん。




「その様子だと、手紙読んでくれたみたいだね……」




 え?嘘、だろ?これって……




「匠君、えっと、あの、その、えーと……」


「ん?」




 ちょっとまてよ、




「あ、えっと、そのー……」


「…………」




 本気か?まじなのか?




「す、す、す、す……」




 す?す、とかひとつしかないじゃないか




「す、好き………………です」




 嘘だろーー!?


 あの、あの花蓮が、俺のことが好き?聞き間違いか?いや、そんなことはない。俺に限って聞き間違いなんてありえない……まじか。




「やっぱり……困る、よね。私なんかじゃ釣り合わないよね……」


「そんな事ないよ!ていうか、むしろ俺の方が釣り合わないし、それに望みはしていたけど有り得ない事だったから。だから……」


「そんなことない!匠君は優しいし、成績いいし、それにカッコイイし……」


「……ありがとう」


「いや、その、うん」




 花蓮の顔は耳まで真っ赤だった。




「実は、俺も花蓮のこと気になってた。1年の時から」


「え?」


「可愛いし、優しいし、それに、話しててすごく楽しかった」


「そんなこと……ありがとう」


「………………うん」




 こうして、俺たちは密かに付き合うことになった。別に隠すつもりはないが、俺の性格上、人前ではイチャイチャできないと思うという意味だ。


 まさか、花蓮の方から告白して来るとは思ってなかったし、ビックリした。






 前日の放課後の教室での出来事だ。




「よし頑張れ!」


「うん!!」




 そうやって元気よく返事した花蓮であったが、




「陽菜ちゃん……どうすればいいんだろう?」


「どうするって告るんやろ?」


「そうじゃなくて、どうやって告白すればいいんだろう?ってこと」


「あー、なるほどね。花蓮は告白したことないもんね」




 そう、唯一の悩みは告白の仕方だった。




「そうだねー……やっぱり無難に手紙とか?」


「手紙って、ラブレターを出すってこと?」


「そうそう、んで、それに屋上に来てとかでも書いといて、屋上に呼び出せばいいねん!あとは、そこで告白して終了」


「そんなに簡単なの?でも、やるって決めた事だしやってみるよ!」


「よし、それでこそ花蓮だよ。じゃあ早速明日実行しよう!」


「え?わ、分かった」




 だから、こんなにも急に告白してきたという訳だ。




「それにしても初彼女!!」




 俺はとてつもなく浮かれていた。花蓮のことが、頭から離れなくなった。一昨日のことを忘れてしまうぐらいに……。




「花蓮が彼女か。ほんとに康晴の、言った通りだったな〜」




 俺は、親友の恐ろしさを実感しつつ、喜びに浸りながら眠りについた。






 まさか、あの場を誰かに見られていたなんて、知るはずもなく…………。

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