おっさん派遣社員は異世界に立つ

茄子の味噌炒り

第1話 

「危ない!鉄骨が」


工事中のビル、鉄骨を吊るクレーンが傾きぶら下がる鉄骨が傾き今にも落下しそうなその下にはその場から離れようと人々が悲鳴をあげ逃げ惑う中子供が巻き込まれ転んでしまう。母親が駆け寄り助け起こそうとした時、


「落ちるぞ!」


「きゃあぁぁぁ!」


悲鳴が響き渡る。クレーンはビルにぶつかりワイヤーから鉄骨が滑り落ちる。その下には逃げ遅れた親子。

母親は子供をかばうように抱きしめ目を瞑る。


グシャッ!鈍い音がなり頬を伝う生暖かいもの…だが痛みは無い。子供は無事だろうか。ゆっくり目を開け腕の中の子供の安否を確認する。


「ママ…ヒッ」


子供がこちらを見上げ無事を確認しホッとしたが不意に子供の表情が曇る。


「あの…大丈夫すか…?」


頭の上から声が聞こえて声の方に目を向ける。すると自分と鉄骨の間に大きな影が砂煙の中あった。


呆然とする母親にその影は


「えっと…動けるなら避難してもらえますか?コイツを降ろしたいんで…」


背中で受け止めた鉄骨を目線で指し影…いや大きな男が避難を促す。母親はコクンと頷きその場から離れる。


男は辺りを確認し背中で受け止めた鉄骨を地面に落とし立ち上がる。落ちた鉄骨はアスファルトを砕き地面にめり込み砂煙を巻き上げた。


「うおおおおおおおおお!!!」


「すっげえぇぇ!人間かあのおっさん!」


辺りからの歓声にビクッとしながら男は袖口で頭から流れる血を拭き取る。すると助けた母親が子供を抱き上げながら近づいてきて頭を下げてきた。


「ありがとうございました。おかげさまで助かりました。」


「おじちゃん…ありがとう。痛くない?」


「おぅ。鍛えてるからな」


腕をあげ二の腕をパンっと叩きニカっと笑う。と辺りを見渡し大声で叫ぶ。


「皆様!ウチの現場での不手際でお騒がせしました!直ちに復旧作業に入ります!ご迷惑おかけしますが宜しくお願いします!」


「お怪我がなくて何よりでした。では失礼します。」


母親と子供に頭を下げ、鉄骨を片手で持ち上げ方に担ぎ事故現場へ戻っていった。



男の名前は小田島 大河(40)

身長 185cm

体重 85kg

趣味 鍛錬 山籠り

夢  寝ても覚めても鍛錬出来るように

   時給自足の環境を整える場所作り 


20歳の頃から派遣社員として様々な職種を経験し金と技術を蓄え山を買いその中腹にはログハウスを自力で建築し井戸も掘り、排水用の雨水を貯めるタンクも設置エネルギー源は屋根に設置したソーラーパネルの他、4枚のソーラーパネルを斜面に設置。畑も耕し収穫も出来るようになり時給自足の環境は揃いつつあった。


〜派遣会社、事務所〜


「いやぁ。小田島君、君のおかげで怪我人を出さずにすんだ。本当に有難う。」


派遣の担当者(近藤 英二)から件の事故についての聴取をうけ派遣先からと感謝の言葉をもらい金一封を受け取った。


「いえ、大したことは」


「しかし身体は大丈夫なのか?鉄骨を受け止めたらしいが」


「2トントラックに跳ねられるよりはマシでしたね。少し頭を切ったくらいでしたので」


「相変わらず人間離れした身体だな」


担当者は乾いた笑いを浮かべた。


「ところで先方から君を正社員として雇いたいと打診を受けたんだが…」


「お断りします」


「…というと思ったよ。やはり時給自足生活を考えているのか?」


「えぇ。もうそろそろ環境が整うので派遣の仕事も辞めようかと考えてました。」


「君との付き合いも20年位か…何処に派遣しても社員登用の話は来てたんだかな」


「有り難い話ではありますが、俺の夢の為残りの人生かけて強さを追い求めたいと思います。」


「強さね…格闘技の世界も君の力は持て余す。後は自然しか君の相手にはならんのだろうな」


「まぁ文明の力を持って引きこもろうとしてるわけですから自然を相手ってわけではないですが。働かず趣味に行きたいだけですよ。」


二人で笑い合う


「まぁこの現場が最後として山に籠ろうとも仕事が欲しければ何時でも連絡してくれ」


「はい。近藤さん長い間お世話になりました。」


二人は握手を交わし大河は事務所を後にした。


「さて、我がマイホームまで走るか」


軽く屈伸をして60キロ先の山に向かい走り始めた。


〜30分後〜


「うしっ到着。」


目の前には小田島邸の縦看板、少し開けた獣道のような山の入口ここから数100メートル先に大河の建てたログハウスがあり、大河は大きく息を吸いログハウスに向け一気に駆け上る。


半分程度進んだ時、顔を真っ赤にして大きく息を吐き出す。走りながら呼吸を整えまた大きく息を吸う。

ラストスパートとでもいうように更にスピードを上げログハウスの前に頭から滑り込んだ。


「ぜぇぜぇ…はぁほぁ…す〜、はぁ〜…」


地に伏せながら呼吸を整える大河。ゆっくりと立ち上がりつぶやく。


「ひと呼吸ではまだ上りきれないか…」


頭のおかしい事を呟きながら

「さぁ風呂風呂、そしてメシ!」

とログハウスの中へ入っていった。









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