【☆彡】ラグナロク【☆彡】異世界転生

マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~

第1話 大神丹次郎──神を呪う者

 俺は大神丹次郎おおじん・たんじろう


 大学を出て地方の中小企業に勤め、4つ下の妻と授かり婚をしてからは妻子に苦労させないためにと懸命に働いてきた。


 小さいけれど30年ローンでマイホームも購入した。


 だけどちょうど俺が37才の時、妻の浮気(それも複数)が発覚。

 しかも妊娠していたときた。


「妻の腹の中に他の男の子供がいる……?」


 その事実に俺はひどく打ちのめされ、心の底から絶望した。

 生まれて初めて死にたいと思った。


 この世界と、この世界を作った神さまを呪った。


 だけど俺にはまだ多感な時期の愛娘がいるから、だから歯を食いしばってその絶望に耐えようとした。


「今は苦しくても、だけど絶望の先にはきっと、絶望すらも笑って振りかえることができる未来があるはずだから――」


 そう思って俺は自分を奮い立たせた。

 この絶望のどん底から這い上がるんだって。


 けれど絶望のどん底かと思ったその場所には、なんということだろうか、まだまだ下があったのだ。

 まさかのまさか、そこは絶望の底ではなかったのだった。


 ゴタゴタの中で、今年中学2年生になる愛娘までもが、別の男の子供だったことが発覚したのだ。


 つまり俺と妻は授かり婚だったのではなく、妻による計画的な托卵婚だったのだ――!


「まさか最愛の娘まで他の男の子供だったなんて――」


 俺は今度こそ絶望に打ちひしがれた。

 目の前が真っ暗になった。


 これまでの俺の人生を全て、完膚なきまでに否定されたような気分がした。


「さすがにこれ以上は下はないだろ……俺は今、間違いなく人生のどん底にいる……」


 俺は近所の公園で一人、ブランコにポツンと座って夜空を見上げながらむせび泣いた。


 だけど神さまってヤツは、俺をとことんまで嫌っていたようだった。


 さすがにこれはもう結婚生活を続けるのは無理だと思って離婚しようとしたら、既に家の名義は妻の名義に書き換えられていて俺が出て行かないといけないことになるし。


 なけなしの財産は妻がFXと仮想通貨で溶かしててすっからかんになってるし。


 親権を取って引き取ろうと思った愛娘は、


「血の繋がってない中年男と一緒に生活するのは無理、絶対に無理……生理的に無理……キモイ……マジで……」


 って言って俺とは口すら聞いてくれなくなっちゃうし。


 あれよあれよという間に坂道を転がるように人生を転落した俺は、気づいた時には1人になってしまっていた。


「なんだよこれ? 人生ってクソって意味だったのかよ? なんかもう俺って生きててもしょうがなくね……死んじゃおっか?」


「生命保険をかけてあるからそうしてくれると助かるわ。でもなるべく早く保険金が欲しいから死ぬなら早く死んでくれる?」


 妻のその容赦のない言葉に俺の頭はついにプッツンした。

 最後の一線を飛び越えた。


「ああもう分かった! こんなクソな世界は俺の方からおさらばしてやるよ!!!!」


 全てがどうでもよくなった俺は福井県の自殺の名所、切り立った断崖絶壁で有名な東尋坊に向かうと、冬の日本海に飛び込んでこの「現実というクソゲー」に生きる大神丹次郎というプレイヤーからログアウトしようとした。


「最後くらい、俺は俺の意志でこのクソ世界から飛び立つんだ――!」


 しかし神さまというのは本当に俺という存在が嫌い――どころか憎くて憎くてしかたないみたいだった。


 俺は東尋坊に行きつく前に金属バットを持ったチンピラたちにおやじ狩りされてしまったのだ。

 散々殴る蹴るの暴行を受けて身ぐるみはがされた後、ゴミのように転がされて今に至る。


 頭からはドクドクと血が流れていて、身体は恐ろしい程に冷たかった。


 これは死ぬなと実感した。


「飛び降りる手間が省けたとも言えるか……でも最後の最後までこんな目に遭うなんて、本当にこのクソ世界は俺のことが嫌いなんだな、クソ世界死ね……ユーキャン」


 そのまま俺の意識は闇に薄れていき。


 大神丹次郎は惨めすぎる人生の果てに、どうしようもなく無価値に死んだ――はずだった。


 気が付くと俺は謎の特殊空間にいた。


「おめでとうございます大神丹次郎さん。およそ日本とは思えないどうしようもない悲惨な人生を送ったあなたは、特別に新しい世界に18才で転生転移する権利を手にしました。どうぞ好きなチートスキルを1つ選んでください」


 そして女神っぽい人がそんなことを言ってきた。


 よくわからんが、どうもそう言うことらしい。


「俺は新しい人生をやり直せるのか……!」


 特にそれを疑うことはなかった。

 もちろん嘘かもしれない。


 だけど死んだと思ったらチートスキルを貰って人生をやり直せると言われて、それで嫌という奴はいないだろう?

 もしやりなおした人生すらも悲惨だったら、その時はまた死ねばいいだけだし。


 とりあえず1周目の人生が辛かったから楽しくスローライフしたいなぁ、というのが俺の素直な感想だった。


 派手な人生なんて要らない、手のひらサイズでいいから当たり前の幸せが欲しかった。


 だがしかし。

 だからといっていきなりスローライフ用の生産スキルとかを貰うのは愚の骨頂だ。


 暴力や策略で善意の相手をどうこうしようという輩に苦しめられた俺としては、そういうあれやこれやに絶対に負けない最強の力が欲しかった。


「なら最強の戦闘スキルをくれ。魔王とかドラゴンとかを余裕で倒せる超最強のやつをな」


「それじゃあほとんど神さまですよねー」


「それくらい強くしてくれ、無敵な感じで」


 まずは最強無双チートで世界を守ったりして、栄誉と財産と領地を得てから心行くまでスローライフするのだ。


 なんくせ付けてくる奴らは皆、最強の力で返り討ちにしてやる。


 生産スキルをもらってもトラブルの解決には役立たないからな。

 アンパ〇マンも最後は必殺のア〇パンチで殴って解決してるし。


「くくく、最後はやはり武力よ!」


「分かりましたー、じゃ、そーゆーことでー」


 俺は異世界に転生転移した。


 そこはWeb小説なんかでよくあるなんちゃってヨーロッパ、いわゆるナーロッパ風の異世界の、とある国の王都だった。


 年齢は18才。

 37才から20歳ほど若返っている。


 しかもこの世界は今、おあつらえ向きに魔王の脅威にさらされているらしい。


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