第十章時点

【序、前部分】

 皐月の中頃から終わり頃に時が経っており、棚盤山たなざらやまでの一件から約一か月が経つかという頃合い。

 兼久隊も碧原へきげん武咲たけさき江営こうえいに到着したが、幽世に入ることはできずにいた。現世の江営は舟吉町ふなよしちょうにて、利毒の研究に引き寄せられ当てられた妖怪や成り損ないの対応をしている。一方、幽世では芳親と紀定がさぎたちと共に、忘花楼での潜入調査を続けていた。

 そこに、天狗の祖たる妖怪が現れたことで、停滞していた状況は張り詰めることとなる。


護堂ごどう澄美すみ

 晴成の一時的な従者として、兼久隊に同行している少女。かつて志乃に差し向けられた刺客の少女。宏実ひろざねの養子となり、護堂家の名と新たな名を貰った。

 暗殺のための戦闘技術を仕込まれていたため、つばのない細身の脇差を得物として、兼久隊に貢献している。しかし強大な妖怪の気に当てられた際は耐えられず、気圧された。


慧嶽けいがく

 外側に跳ねた銀の蓬髪ほうはつ、冠のように生えた複数の角、白黒が逆の目、のこぎりのような歯、尖った耳、赤肌に変わる白肌、伸縮する頑丈な爪といった要素を持ち合わせる異形の鬼。声は男女どちらの要素も持ち合わせ、笑い声はきしむような奇怪な響き。装いは彩鱗国いろこのくにと異国の古い様式を合わせた着物と足結あゆいの袴に梵天を組み合わせた赤い帯、赤い鼻緒を付けた黒の一本歯下駄というもの。

 太古には星として虚空を駆けていたが、砕けて異国の地に降り注ぎ、自ら欠けた身を(時に強引な手段で)集めて現在に近い姿となり、彩鱗国へやって来た。その後は一つの山を丸ごと異界状態にして住処としていたが、色護衆の前身である組織の関係者と戦い、山を半壊させられて敗北。この時に戦闘狂的な一面が芽生え、以降人間との戦いに楽しみを見出すようになった。また、住処とした山と同一の存在だったため、山中では木々や岩と同じ気配となり、存在を感知されにくくなる。

 天狗の祖であり、風晶が風を操る所以ゆえんでもある(雷雅と同じ術を使うのを嫌ったため、代わりの師となった)。江営も近くの天狗たちの元へ顔出しのため通りかかっただけだったのだが、雷雅に呼ばれて寄り道がてらやって来た。白雨ですら本気にならざるを得ない相手だが、視察と称して忘花楼に来訪することを告げ、忘花楼側は失敗できない仕事に緊迫することとなる。

 強大な存在だが、自分に気圧されない存在、自分と同等に戦える存在、自由に強くあるがままある存在を好む。色護衆の実力者はもちろん、今も星と関係を持つ家柄の晴成にも興味を示した。雷雅に呼ばれた一因である妖雛二人、志乃と芳親にも期待を示したが、志乃に関しては己を律する姿勢に顔を顰め、妖怪側に落ちるよう働きかけた。


【中部分】

 忘花楼は慧嶽へのもてなしを成功し、利毒の研究は大詰めに。それを受けて雷雅陣営が忘花楼へ来訪することも決まった。

 雷雅の来訪に白雨は歓喜するも、志乃がいたこと、志乃がいるから白雨は不要とされたことに激怒。更なる美貌を欲して暴走し始めるかと思いきや、利毒に裏切られ最後の呪詛として活用される。一方、白雨の暴走と転落の場に居合わせた芳親たち忘花楼潜入組は蒼い炎に包まれ、とある記憶を垣間見ることとなる。

 そして、白雨が最後の欠片となって呪詛が生まれる。その中心にいた人物こそ、利毒が本当に手を組んでいた相手だった。


白雨

 慧嶽からも群れを率いるに足る器と称されるも、志乃への嫉妬と逆恨みから暴走。芳親の目や紀定を食らおうと暴走し始めるが、芳親が感じていた違和感の正体、利毒が仕込んでいた蜘蛛に腹を貫かれて負傷し、中庭へ転落。さらに利毒から恨みをあおられながら殺害された。


青柳亭青鷺

 正確には青鷺火あおさぎび、怪火の妖怪。遥か昔、白雨に仲間たちを殺されてから、ずっとさ迷っていた。妖鳥から怪火の妖怪へと変わったことで仲間たちの魂を留め置き、まだ生きている錯覚を見続けていたが、白雨の封印が解けたことで正気に戻ってしまう。結果、彼は復讐に道を定め、禁術に手を染めて仲間たちをも利用し、白雨が滅びる様を見るべく雷雅に協力した。

 禁術を用いた反動でその身は燃え、記憶も急速に失われ、炎の障壁となって芳親と紀定の前に立ち塞がる。


珠花たまはな

 利毒が集め、生成した呪詛をその身に溜め続けていた少女。かつての名は久咲ひさき。夜蝶街の禿かむろ、遊女の一人だった。姉と慕っていた女性と共に暮らしていたが、姉が怨霊となり、志乃に始末されたことを長年恨み続けてきた。

 元は人間だったが、利毒に協力し呪詛を溜め込むうちに妖怪、絡新婦じょろうぐもに類する存在となった。夜蝶街を出た後は別の町で緩やかに死を待っていたが、利毒に見出され、かの鬼と手を組んだことにより、半ば諦めていた復讐を目的に動き始める。


【後部分】

 珠花は志乃が囚われた花楼最上階へ向かい動き出し、芳親と紀定は炎の障壁と化した青鷺、そして雷雅の命に逆らえず立ち塞がる風晶を前に、突破の戦いを強いられる。

 風晶と二人の間には圧倒的な差がありつつも、紀定が妙術〈影潜えいせん〉の真骨頂、痴呆に落ちる危険のある術を行使し、その裏で芳親が風晶を出し抜く形で突破、花楼に入る。しかし珠花は最上階へとっくに到着し、優位から志乃を攻撃し続けていた。ところが志乃に異変が起こり、利毒の助けが入りつつも逆転されてしまう。

 結果的に珠花の身に溜まっていた呪詛が解き放たれ、余波により花楼は崩落。やっとのことで最上階へ辿り着いた芳親は、放り出された志乃を捕まえつつも落下。その先で待ち構えていた雷雅から、真の目的を明かされる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る