黒海の出口
気がついたら,硬い岩の上で寝ていた。体は傷だらけで,血を流している箇所もあったが,一応,渦から出られたようだった。近くに,ランタンと剣も落ちていた。剣は,何とか折れずに無事だったが,ランタンは壊れていた。
体を起こしてみると,眼前に,宮殿のような立派な建物が建っていることに気がついた。中に何があるのだろう?もしかして,真珠があるのかもしれない。眠って,体力を少し回復していた浪子は,早速,宮殿の中へと向かった。
宮殿の中は,不気味な静寂に包まれ,生き物の気配はしなかった。石壁があるだけで,中はがらんとしていた。
長い廊下の突き当たりに,扉があったので,開けてみた。鍵はかかっていなかった。部屋の中を覗き,浪子は思わず息を呑んだ。部屋一面が,宝石でいっぱいになっていた。
部屋の隅っこに,王座があり,王座には,巨大な亀が座った。亀は,王冠を被っていて,その王冠に真珠が埋め込んであった。
「真珠だ!」
浪子は,思わず声を出してしまった。
真珠を守る怪獣というのは,ただの亀だった?いや,そのはずはない。これは,きっと,ただの亀ではない。見た目に騙されてはいけないと,浪子が自分に言い聞かせた。
亀は,王座からおり,浪子の前に立った。
浪子は,構えた。
亀は,何かを言おうとするかのように口を開けた。しかし,口から出て来たのは,声や言葉のような優しいものではなく,サソリの尻尾のようなものだった。きっと,猛毒が入っているに違いないと浪子は,思った。
亀がそれ以上近づこうとするのを,浪子は剣で妨げた。
真珠が亀の王冠についている。亀を倒さずには,真珠を手に入れるのは,無理だ。今回の戦いは,知恵では勝てない。逃げられない。
浪子は,必死で,親のネッシーのことを思いながら,戦った。亀は,なかなか手強い相手で,何回剣で切り付けても,少しも怯まずに,弱りそうになかった。
亀の粘り強く,元気な様子とは打って代わり、浪子は,戦えば戦うほど,疲れて来た。すると,不意を突かれて,亀の口の中から出るサソリの尻尾が浪子の腕を掠め,血が出始めた。
腕を怪我すると,浪子は,オロオロするどころか,血がたぎった。親のネッシーのことを思うと,胸の底の方から,やる気がみなぎった。
「ネッシーを絶対に死なせない!私も,こんなところでは,絶対に死なない!ここまで来て,負けるものか!」
浪子は,そう叫んで,剣を力の限り振るい,亀の喉の奥へ刺しこんだ。
亀は,体を大きくよじらせ,奇声を上げてから,床の上で倒れた。
亀が倒れたことを確かめると,浪子は自分の怪我を思い出し,手当てをした。毒が身体の中を回り始める前に吸い取る必要がある。浪子は,毒が全部無くなるまで,口で吸い取り、吐き出した。
そして,倒れた亀の王冠から,真珠を取り出し,不気味な宮殿を後にした。
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