今思えば……

「ら、雷鳥と遭遇すれば、あなたに譲れば良い、のか?」


「えぇ、その通りです。特に面倒な条件ではないと思いますけど」


面倒どころか、仮に雷鳥と遭遇すればティールに戦闘を任せていいなど、彼等からすれな願ったり叶ったりの提案である。


「わ、分かった。その条件を飲もう」


「ありがとうございます。では、二十一階層に行きましょうか」


こうしてティールたちは深緑のファミリアのメンバーと共に二十一階層へと向かった。



「その……もしかしなくても、ティールさんは雷鳥の素材が欲しいんですか?」


「雷鳥の素材が欲しいと言うか、雷鳥と戦ってみたいと言いますか」


道中、何故あのような条件を出したのか尋ねると、これまた首を傾げたくなる答えが返ってきた。


「雷鳥と戦いたい?」


「そうです。ここ最近、その為に二十一階層と二十五階層の間を行ったり来たりしてるんですけど、中々遭遇出来なくて」


「そ、そうなんですね」


雷鳥と戦いというのが理由であれば、二十一階層から二十五階層を行ったり来たりするのは……一応理解出来る四人。


ただ、進んで素材の為にではなく、単純に戦いたいという理由で雷鳥を探してる件については、理解しかねる。


(普通はそんな理由で……いや、けどこの人は実際、俺らを追い詰めてたダーディーディアスをあっさりと、力技で倒したんだよな)


闇属性の黒鹿、ダーディーディアス。


Cランクモンスターであり、闇を纏った突進は同帯のイノシシ系モンスターの突進にすら打ち勝つ。


そんなモンスターを相手に武器を携帯してるにもかかわらず、素手で突進を受け止め、そのまま力技で叩き潰した。


(確か、Bランク……なんだよな。携帯してる武器も使わずにあんな戦いが出来るってんなら、色々と納得だ)


彼等も見た目だけで実力は測れないという事ぐらいは解っているが、ティールの場合見た目がまだ青年になってない少年どころか、がっつり見た目通りの若造も若造である。


「ティールさんは……どうやって、そこまで強くなったんすか」


「…………なんて言うか、当時はこう……強くなる事に物凄く必死だったんですよ」


当時……ティールの見た目で当時という言葉を使われると、完全にギャグにしか聞こえない。


笑ってしまうのは駄目だと解っているため、吹き出しそうになった一人は必死で自分の口を抑えた。


「今思えばバカというか、無謀が過ぎると言うか……死を覚悟したのは何度もありましたね」


「し、死を覚悟したってことは、今よりも幼い頃から、モンスターと戦ってたん、すか?」


「そうです。当時……全く自覚はなかったんですけど、もしかしたら自棄になってたのかもしれませんね」


ギフトを受け取ったとはいえ、五歳の子供が野性のモンスターに挑む。


投擲の訓練は行っていたとはいえ……自棄になったと思われても仕方ない行動である。


「その無茶をし続けた結果、今の様な強さを手に入れることは出来ました」


「ティールの場合、冒険者になってからも無茶をしてるのではないか?」


「…………まぁ、それは否定出来ませんね」


村を飛び出し、広い広い世界に飛び出したかと思えば、半年も経たないうちにBランクのモンスターと命懸けのバトルを行い、結果として勝利を収めることが出来たものの、その後思いっきりぶっ倒れた。


その後も謎の黒装束四人組を相手にラストと共に戦い、モンスターの大群に挑んだり……紅いリザードマンとタイマンバトルをして片腕を切断されながらも、なんとか勝利。


聞けば聞くほど、これまでティールが歩んできた冒険者人生は波瀾万丈が過ぎる。


「皆さんが俺の真似をするってなると、休まず何日もダンジョンに潜り続けるといった形になると思います。そういった人と出会ったことはないですけど、おそらく体か……もしくは精神が先にやられてしまうと思うので、絶対にお勧め出来ません」


死ぬか廃人になるか、どちらかの光景が容易に想像出来てしまい、四人は首を縦に振った。

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