そいつが一番ヤバい
「それじゃ、頑張っていこうか」
先日、結局ギルド内で問題を起こしてしまったティールたちであったが、夜の間にラストに殴り飛ばされた者たちが報復に来ることなどはなく、無事……朝を迎えてダンジョンへと向かう。
「正直なところ、昨日の夜はワクワクして眠れなかった」
「えっ……」
「子供みたいだろう」
「いや、そういう訳じゃなくて……きょ、今日が探索日で大丈夫ですか?」
「ん? あぁ、そこは問題無い。ワクワクして眠れなかったが、それでも頭は冴えている」
「そ、そうですか……なら、大丈夫そうですね」
アキラの眼に、強がりはない。
予定通りダンジョン……波状試練の入口へと向かう。
「ここがダンジョンの入り口前、か。聞いていた通り、本当に賑やかな場所だな」
多くの屋台タイプの商店、自分の特技を売り込んだり、自分たちのパーティーに足りない要員を口にして勧誘する者たち。
特に関わることがない者たちではあるが、アキラにとってはその光景がとても新鮮であり、見たことがない光景というのは、やはり心が躍る。
しかし……当然の様に、ラストとアキラという容姿と戦闘力が整っているであるパーティーに声を掛けたい冒険者は多い。
先日、バカが下手な絡み方をして殴り飛ばされたが、その場にいる全員が二人の事をバカにしたわけではない。
あの時特に口には出してなかった自分たちなら……と思って近寄ろうとするが、ラストとアキラは前しか……ダンジョンの入り口しか見ていない。
「「「「っ……」」」」
お前たちなど眼中にない。
他者にそう感じさせるほど鋭い目をしながら……寄ってこようとしていた同業者たちを無視し、ダンジョンへと入って行った。
「こ、こぇ~~~~」
「ちょ、ちょっとピリつき過ぎじゃねぇか?」
「初めてのダンジョンだから、もしかして緊張し過ぎてたとか?」
「黒髪の女の方が初めてっぽい反応してたけど、竜人族の野郎の方は普通だったし、初めてじゃないんじゃねぇの?」
「それじゃあ……あれよね。先日どっかのバカがあの二人に絡んだから?」
「チッ!! あいつら…………まっ、多分これまで何度も似た様な絡まれ方してきたから、もう色々とうんざりしてんのかもな」
どう考えても、ぱっと見だけでも強そうと解る二人と臨時パーティーを組めなかったからといって、彼らは家に帰る訳ではなく、また勧誘……もしくは売り込みを始める。
(そういえば、なんであんな小さなガキと一緒だったんだ?)
(あの子、どう見ても青年って感じじゃなかったわよね?)
(もしかして、あのガキは貴族の令息で、竜人族の野郎と黒髪の美人な姉ちゃんは、あのガキの護衛……なのか?)
(いかつい竜人族の戦士に、美人な黒髪姉ちゃんが傍にいるから、あのガキは特にへらっとしてたわけか………クソったれだな)
先日、バカがまたアホな口を開かないように牽制したティール。
しかし……それは全員が気付くほど派手な牽制ではなかったこともあり、まだ多くの冒険者たちが一番ヤバい存在なのがラストやアキラではなく、少年であるティールだということに気付いていない。
「…………ダンジョンは神が生み出した、と言われても信じてしまうな」
「??? あぁ、なるほど。確かに中に入れば、外側とは全く違う空間ですもんね」
「このダンジョンは洞窟と遺跡……後は山岳と樹海だったか」
合計で四つの階層エリアが存在し、ダンジョンの中では無限にモンスターが探索者に殺されては生まれてを繰り返す。
そして攻略の報酬とも言える宝箱も……一定時間経てば、何処かに現れる。
「ふ、ふふふ。幼い時に戻った様なワクワク感だ」
ただ洞窟の中を歩いているだけ。
これまでの冒険者経験から、洞窟内を歩き、モンスターや盗賊などと戦ったことはある。
それでも……ダンジョンという摩訶不思議な魔窟の中を探索している。
アキラは無意識にワクワク感が籠った笑みを零し、ティールはその笑みにやられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます