何が見ていた?
「っ……今、何か聞こえなかった?」
「…………何かと何かがぶつかった、気はしたな」
カーターに滞在を始めてから二日目の夜、夕食を食べているティールの耳に……細部までは解らないが、それでも遠く離れた場所で、何か気になる音の響きを感じ取った。
「ぶつかった、か……であれば、強大な力を持つモンスター同士がぶつかったのかもしれないな」
「……モンスターと冒険者の可能性は?」
「それも十分にあり得る」
時刻は既に午後六時を過ぎている。
日帰りで受けられる依頼を受けている、もしくは特に依頼を受けずに周囲の森を探索している者であれば、完全に日が暮れるまでに戻る様に努める。
だが、野営を視野に入れて活動している冒険者たちであれば、この時間帯でも探索を行っている……もしくは野営の準備を始めている可能性は十分にある。
「俺たちが気になるほどの音となれば……やはり、Bランクか?」
「かもしれない。Aランクの様な正真正銘の怪物が暴れているのであれば、もっとハッキリ聞こえるはず」
「…………そういえば、今日の昼間……少し離れた場所から何かに見られてた気がしたな」
「むっ、マスタ―も感じ取っていたか」
「私の勘違いではなかったか」
伝えようかどうか迷っていたら、三人共同じ時間帯に自分たちが何者かに視線を向けられていたことを感じっていたと知り、小さな笑いが零れる。
「して、いったい何者だったのだろうな」
「…………この前、襲って来た連中の仲間が妥当か?」
「であれば、その場で襲ってきてもおかしくないと思うが」
「ふむ……それもそうか。マスターは何者だったと思う」
「そうだなぁ…………あれは、どっちかって言うとモンスターの類だと思う」
本当に遠い位置から見られていたこともあり、三人がギリギリ勘付くレベル。
その詳細が解らないのも当然だが、ティールはおそらく人ではないと感じていた。
「モンスター、か。それなら、ある程度知性を持っている個体ということだな」
「私たちを見て、安易に襲い掛かってこないということを考えると、そういうことになるな」
「最低でもCランクの最上位……Bランクでもおかしくない」
「俺が初日に感じた何かは、そいつが発していたものかもしれないな」
しかし、そうなると更なる問題が浮かぶ。
「なら、今俺たちの耳に入った何かしらの音は、そのBランクと誰かがぶつかった音ということか」
「「………………」」
ティールとアキラはラストの言葉を聞いて、数秒の間完全に固まってしまった。
「……ふぅ~~~。どうするんだ、マスター」
「えっ」
カーター自体は……基本的に平均的な大きさの街。
カーターをメインに活動する冒険者たちは居るが、彼らの中の最高ランクはC。
ベテランのCランク冒険者もいるが、今現在も街の外で活動している者たちがそうであるとは限らない。
「俺はマスターの言う通りに動く」
「……………………特に、なにもしないかな」
「ふふ、そうか」
小さな驚き、やはりそうかという思い。
ティールは基本的に正義感が強い……というわけではないが、それでもどちらかと言えば薄くはなく、強い方である。
それでも、決して正義感に酔い痴れるタイプ……騎士に憧れを持つ冒険者ではない。
「今も外で活動してる冒険者たちも、冒険者としての強い意志と覚悟を持ってる筈だ。命あっての物かもしれないけど……むやみに助けるのは、彼らの覚悟を侮辱することになるかもしれない」
「ふむ。武士……侍同士の戦いに助太刀するような行為になるかもしれない、ということだな」
「そ、そうなんですかね? まぁ、それにモンスターと冒険者が戦ってると決まった訳ではありませんし」
もう既に外は暗い。
ティールも……夜はモンスターが有利な戦場だということは理解している。
故に、下手に音が聞こえた方向へ向かおうとは思わなかった。
ただ……翌日、ほんの少し……本当に少しだけ、後悔することになる。
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