全てを食らう
「はぁ、はぁ、はぁ……相手を、いたぶって、楽しいか!!??」
「二人で、一人の少年を襲撃した者の、言葉とは、思えないな」
ラストが自身の戦闘を終え、戦闘音が聞こえる場所に戻ってくると、ティールが短剣使いの男が逃げないように見張りながら動き……アキラは決められる場面で敢えて一歩踏み込んで決めにいかず、冷静に戦い続け……短剣使いの全てを食らおうとしていた。
(……気配を消しておいた方が良さそうだな)
ティールに捕捉された状態が続いているにも拘わらず、戦い続けているという事はまだ勝利……もしくは逃走を諦めていないと捉えられる。
しかし、相方である大剣使いの女が既にやられたと知れば?
もはや生き残ろうとする気力が失せるかもしれない。
そんな終わり方はどう考えても消化不良になると解っているラストは、敢えて気配を消し、短剣使いの視界に入らないようにした。
「さぁ! 他に、何か、ないのか!!??」
マジの裏の人間と……しかも本物の強さを持っている者と戦えるのは稀も稀。
アキラとしては短剣使いの全てを引き出し、全てに打ち勝った上で倒したい。
(……俺やラストもそれなりに強敵との戦いを好むタイプだけど、アキラさんはその更に上? をいってるって感じがするな)
強敵のとっておきなど、敵対している相手の気になる部分はあるものの……満足したら、あっさり倒してしまうところがあるティール。
ただ……アキラは敵の全てを飲み込み、己の経験にしようとする。
その恐ろしさにティールやラストだけではなく、絶賛食われている短剣使いの男も気付いていた。
(この女……本気でイカれてるだろ!! この武器、刀ってやつだろ。服装も中々見ねぇ類……侍ってのは、こんな狂戦士みてぇな連中、ばっかりなのかよ!!!!)
知識として頭に入っていた。
だが、感覚的には騎士に近い存在という認識。
しかし実際に出会って戦ってみて……その認識は完全に覆された。
とはいえ、アキラは侍の中でも少々元気が良過ぎる部類。
短剣使いの事前情報が全て間違っている訳ではない。
「ないのか!!?? なら……もう終わらせようか」
ほぼ平行に下がりながら、一度納刀。
(居合斬りってやつか!!!)
その動きは、当然知識として頭に入っていた。
故にある程度距離があれば大丈夫。
斬撃刃を飛ばされても対処出来る様に身構えておけば大丈夫。
それは一般的な常識として間違ってはいなかったが……アキラはその常識に当てはまる侍ではなかった。
「なっ……おかしい、だろ」
「おかしい、か。対峙したい相手にそう言ってもらえるのは……私にとって、褒め言葉かもしれないな」
アキラは体術スキルの技、縮地を発動させ、抜刀。
短剣使いの男が反応する隙を与えず、体を両断した。
「やば……や、やっば!!!!! アキラさん、超凄いっすね!!!!」
縮地自体はティールも既に使える。
だが、最後の一撃は縮地を使えるだけでは不可能な動きだと感じた。
「そ、そうか? はは、そんなに褒めると照れるな」
「いや、本当に凄い一撃だった」
「おっ、ラスト! おかえり。どうだった?」
「お陰様で良い戦いを楽しむことが出来た。マスターの命を狙ったのは許せない行為だが、戦闘相手としては本当に悪くない」
普通は迷惑、恐怖といった言葉が浮かぶものだが、相手が自身の想像を越えるほどの者ではなかったこともあり、結果としてラストにとって戦う分には悪くない相手という認識のまま終わった。
「ところでティール、やはりこいつらは君に激しい怒りを抱いている人物からの刺客なのか?」
ティールが割と負けず嫌い、売られた喧嘩は買ってしまうタイプなのはこの数日間で解っていたので、特に驚きはしないアキラ。
「まぁ、多分そんなところだと思います。ぶっちゃけ、本当にこいつらがいきなり襲ってきたのが原因なんですけどね」
アキラには隠さなくて良いかと思い、おそらく狙われた原因であろう物を見せた。
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