ナイス聞き取り

「ッ…………」


「どうかしたか、ラスト」


昼食を食べ終えてから数時間後、そろそろ屋敷に戻ろうというタイミングで何かを感じ取ったラスト。


「向こうから、悲鳴……らしき声が聞こえた」


「悲鳴、か……」


普段であれば、一先ず悲鳴が聞こえた方向へ向かう。

しかし、今はヴァルターという貴族の令息を護衛している最中。


明らかによろしくない場所と解かる方向に向かう訳にはいかない。


(多分冒険者が対応出来ないモンスターと遭遇してしまったってところか)


チラッと……チラッと、現在護衛中の令息の方へ眼を向ける。


「行きましょう」


「~~~~~~……分かりました。ですが、基本的には自分たちが対応します」


守る立場である身としては文句の一つや二つ言いたいところだが……そういうところがヴァルターらしいとも思い、結局ティールたちは悲鳴が聞こえた方向へ向かう事となった。


「ッ!? マスター、嫌な匂いがする」


「血か?」


「血もあると思うが……良く解らないが、本能がそこに行くなと訴えかける?」


ラストの言葉を聞いて引き返そうかと思ったが、もう襲われてるであろう者たちの影が見えてしまった。


(ん? あれって……おいおい、マジか!? なんでそっち!!!???)


正確に見えてきた人影は……数人の騎士と魔術師、そして一人の……美しい青髪を持つ冒険者と、迫りくる凶悪なモンスターに怯える一人の子供。


「ウィンドランス!!!!」


「フンッ!!!!!!」


複数の風槍と巨大な斬撃が放たれ、一つの集団を襲っていたモンスターが散らばる。


(ッ!? 今ので四体ぐらいは殺れると思ったんだけど、たった二体か……こいつら、眼が赤く充血してやがるな)


嫌な予感がしたティールは警戒レベルを上げ、体に雷を纏って強化。


「ティール君、それにラストも!!」


「シャーリーさん。これはいったい何事ですか?」


幸いなことに、Bランクモンスターはおらず、死者もいない。

しかし数多くのCランクモンスターがシャーリーたちを囲っていた。


(ちッ!!!! ゆっくりと話を聞く暇もないってか)


シャーリーたちを囲うモンスターはどれも興奮状態であり、見境なく……どう足掻いても敵わないティールとラストが相手でも怯えずに襲い掛かる。


(本当に、いったい何が起こってるんだ!!!)


亜空間からマジックポーションを取り出しながら、大半の魔力を消費して複数の結界を展開。


「数分は持つか? 場合によっては一分ぐらいで全部破壊されるかもな」


「す、凄いわね……えっと、何故こうなったかよね」


冷静さを失っていないシャーリーは即座に説明を始めた。

とはいえ、説明する内容はあまり長くない。


いきなり矢が飛んできたかと思えば、何も無い地面に刺さった瞬間、付けられていた袋の封が解かれ、中に入っていた粉が霧散。


シャーリーが勘付いたときには既に遅く、街に戻ろうとする間にCランクのモンスターたちに囲まれてしまった。


「……おそらく、黒幕はいなさそうだな」


「マスター、これはおそらく嫌がらせの類だろう」


「だろうな。嫌がらせにしてはちょっと手が込んでるみたいだが」


結界が割れる音が聞こえる中、二人は至って冷静な態度のまま。


「っし! ラスト、シャーリーさん。それと騎士さんたちも二人をお願いします」


「むっ……分かった。適当に斬っておく」


「防御優先で頼むぞ」


最後の結界が割れそうといったタイミングで、再び複数の風槍が展開される。


その数……二十に迫るほど多く、シャーリーは目の前の光景に自身の眼が正常なのかと疑った。


「ふぅーーー……戦るか」


守らなければならない人がいる。


決して使うような相手ではないが、ティールは相棒である疾風瞬閃と豹雷を抜剣。


結界が砕かれる前に、寧ろ内側から砕き……全力で戦場を駆ける。


(ッ!!!!! 凄い……まるで、閃光)


ヴァルターの眼ではまだ正確に動きを捉えきる事は出来ず、線だけが見えるその動きは、まさに閃光だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る