綺麗過ぎる
「お疲れ様、ラスト。凄い戦い方をしてたな」
「いや、まだまだだ。無理矢理躱していた場面がそれなりにあった……あの程度であれば、マスターも問題無く行えるだろう」
ラストは技術的な部分は自分より優れていると確信しているので、本気でティールなら動きを完全に読んで紙一重で躱せると思っていた。
(どうだろうな……そりゃスカーレットリザードマンと比べれば圧倒的に遅いけど、だからといってあそこまで綺麗に……恐ろしい距離で躱せるか?)
皮が触れるか否か。
ラストは最終的にその感覚でボルガの突きや払いを躱していた。
「俺の相手は……あの令嬢みたいだな」
「……先程の男より、腕は上かもしれないな」
先に開始線へと向かった令嬢……ソニア・ガルガンテが戦闘モードに入った様子を見て、ラストは直感的にボルガよりも少し腕が上かもしれないと予想。
まだ戦っていないティールもラストと同じ予想だった。
(ラストの予想通りかもしれないな。けど、剣の腕がスカーレットリザードマンより上ってことはないだろ)
技術は人の専売特許と思われがちだが、トップクラスのモンスターは技術的な面の強さも並ではない。
そんなトップクラスのモンスターと戦ったティールから視て、ソニアの腕がスカーレットリザードマンより上とは思えない。
「それじゃ、行ってくる」
「あぁ……あまり心を折らないで倒すことを勧める」
(お前がそれを言うか)
ティールは口には出さなかったが、心の中で思いっきりツッコんだ。
ラストの戦いは全く全力を出さず、そしてまともに攻撃せずに最後の一撃だけで勝負を決めた。
躱し方も殆ど紙一重で躱すという恐ろしい方法で躱し切った……ティールからすれば、ラストの戦い方の方がよっぽど心を折るやり方。
(もしかして、戦った後の令息の表情を見たうえでのアドバイスか?)
ボルガの表情を見ると、放心状態なのが分かる。
ラストは実力を証明するために戦ったので、決して悪いことはしてない。
だが、確実にボルガの心をへし折ってしまったのは間違いなかった。
(ラストの年齢を考えれば、あまりあの男性学生と実力が変わらない様に思えるかもしれないけど……まっ、今回の結果は仕方がなかったと受け入れてもらうしかないな)
この時点でティールはソニアとの戦いで、どういった内容で戦うかを決めた。
「それでは……始め!!!」
職員が模擬戦開始の合図を行うと、ソニアもボルガ同様に開始速攻でダッシュ。
しかしボルガとは違い、既に身体強化系のスキルを使用。
「ッ!!」
この行動には少し驚かされ、ティールの表情が僅かに変化。
それでも見切れない速さではなく、木剣できっちり受け止めた。
「……チッ!!」
ソニアとしてはそのまま鍔迫り合いで押し切りたいところだったが、少しでも押せない状況を直ぐに把握し、攻撃を連撃に変えた。
(この人も的確に急所を狙ってくるな。狙いは悪くないと思う。思うけど……)
ボルガと同じく、ソニアの剣筋からは鍛錬の結晶を感じた。
今まで幾日も素振りを行ってきた……それこそ、無意識に今と同じく急所に放つ攻撃が行える。
そんな可能性を感じる動きだが、ティールにとっては少々綺麗過ぎた。
(ジンさんが言ってた、教科書通りの攻撃ってやつだな)
ソニアの剣の腕は中堅程度の高さはあるが……少し戦い続ければ攻撃方法はある程度解かってしまう。
ただ、ここで解ったからといってティールはラストの様に紙一重で躱すことはなく、全て木剣で受け続ける。
そして一分ほどが経ったところで攻守逆転。
今度はティールがソニアに息をつかせる間もなく攻撃を繰り返し、ソニアもなんとか木剣で受け続ける。
しかしティールとは違い、斬撃を防御する度に衝撃で体が後ろに押されてしまう。
ソニアの体があと少しで仲間のところまで下がってしまうというところで、この模擬戦で初めて身体強化のスキルを使用。
一気に剣速を上げ、木剣の先をソニアの首筋に突き付けた。
「ッ!! ま、参りました」
ここから逆転出来る可能性があると思ってしまうほど、脳内がお花畑ではないソニアはボルガと同じく自ら敗北を宣言した。
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