疑問と侮りの目

「失礼します、お客様がお見えになりました」


受付嬢が扉をノックし、いよいよ二人がこれから二週間護衛を行う学生たちとご対面。


(当たり前だけど、学生だから制服を着てるよな……それと、なんだから俺やラストみたいな一般人とはこう……どこか雰囲気というか、身に纏う空気? が違う)


ティールは自分たちと反対側の椅子に座る学生たちと自分たちでは、何かが違うと感じた。

しかし、学生達が身に纏う空気には見覚えがあった。


(そういえば、昔オークに襲われてた女の子と雰囲気が似てるな……これが貴族特有の雰囲気、ということか)


雇われの身ではあるが、嘗められる訳にはいかないので驚きの感情を表に出さない様に務める。


「こちらのDランク冒険者であるティールさんとラストさんが、二週間の間皆さまを護衛する冒険者となります」


受付嬢が四人に二人を軽く説明するが、学生達の表情が少々険しい。


(……まぁ、そうなるよね)


ティールは現状に悲観せず、仕方がないと受け入れる。


「実力不足に見えるかもしれませんが、精一杯勤めせていただきます」


君達が考えていることは分かっている。

その上で受けた依頼に対して力の限り務めさせてもらう。


そういった思いで頭を下げたが、それだけではやはり本当に自分たちの護衛を行える程の実力があるのかどうか。

まだ経験が少ない四人には分らない。


ただ、こういった状況になるのは受付嬢……ではなく、副ギルドマスターであるディッシュは想定済みであった。


「皆さんはもしかしたらティールさんが歳相応の実力しかないと思っているかもしれませんが、当ギルドは皆さんの護衛依頼を達成できる程の実力があると判断しております」


受付嬢がギルドはティールとラストには四人をモンスターや盗賊から守れるだけの力がある。

そう宣言するが、生徒たちの心にはまだ自分たちの存在が軽んじられているのではという思いがあった。


子供とはいえ、貴族の一員に意見をするのは経験数がある受付嬢といえど、かなり勇気がある。

しかし受付嬢が二人の実力が本物だと分かっているので、恐れずにある提案をした。


「もし、ティールさんとラストさんの実力に不安があると混じるのであれば、これから二人と模擬戦を行ってみてはどうでしょうか」


本当に護衛としての実力があるのか。

自らの体で体験するのが一番手っ取り早い。


その方法に生徒たちは納得した。


「分かりました。それでは、彼らと模擬戦しますが……仮に二人が負けるようなことがあれば、直ぐに代わりの護衛を用意してくれるんですよね」


「えぇ、勿論です」


ディッシュも万が一のことは考えているので、ベテランのCランク冒険者をいつでも呼び出せるようにしている。


(ラストが堪えてくれて本当に良かった)


四人の生徒がティールに疑問、侮りといった感情を含んだ瞬間、ラストから静かな怒りを感じた。

決して感情が表に出ることはなかったが、隣にいたティールはその静かな怒りを確かに感じ取り、いつでも止める準備ができるように構えていた。


だが、ラストが今のところ四人に喧嘩腰の態度を取ったり言葉をぶつけることはなく、マスターの為に大人しくしていた。


それでもティールの中から完全に不安はなくなっていない。


(それはそうと、いきなりぶっ飛ばしたりしないよな。確かにそれはそれで解りやすい倒し方だとは思うけど、護衛対象を怪我させるのはな……いや、向こうもラストと模擬戦するなら怪我をするかもしれないってのは承知か)


成り行きでラストも四人の内、一人と模擬戦を行うことになった。


マスターであるティールが侮られたことで、確かにラストは怒りを感じていた。

しかし、直ぐにそれを爆発させるだけでは迷惑を掛けてしまうと目を覚まし、現在は非常に冷静になり……どうやって四人に実力差を身に染みて分からせるかを考えていた。

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