当然、睨み返す

「すいません、ティールとラストという者なんですが」


「ティール様とラスト様ですね、少々お待ちください」


イグラスに指定された料理店にやって来た二人。

ティールが自分たちの名前を店員に伝えると、手が空いている店員が二人を個室へと案内した。


「こちらにイグラス様たちがいらっしゃいます」


「ありがとうございます…………すぅーーーー、失礼します」


おそらく、集まる冒険者の中では一番歳下で冒険者歴が短い。

それを自覚した上で比較的丁寧な言葉づかいで入室。


一室の中には既にイグラスのパーティーを含め、三つのパーティーが待機していた。

今日やって来るパーティーの数は五つ。


ティールは四番目に到着したことになる。

個室に入ってきた瞬間「ルーキーならもっと早く来るべきだろっ!!!!!」なんて面倒な怒号が飛んでくることはなかった。


だが、それでもティールに厳しい目を向ける者は何人かいた。


(まっ、やっぱりそういう目を向けてくる人はいるよな)


厳しい目を向けられることは店に来る前から予想出来ていた。

今は改善したが、面倒な同期を思い出すと絡んで来ないだけ楽だと思える。


ただ……ティールを下に見る輩に対しては、ラストが殺気に近い感情を込めて視線を返す。


「「「ッ!!??」」」


ティールは面倒な視線を向けてくる輩に対して冷静な態度、そして見た目は全く怖くないのでビビる必要はない。

そういった第一印象を持たれたが、ラストは竜人族。


体格が良く、顔も厳つい。

そんな青年が殺気に近い感情を込めて睨みつければ、ベテラン組であっても一瞬竦んでしまう。


現状を直ぐに把握したイグラスは二人を自分たちの隣に来させようと、手招きした。


「どうも、今日はよろしくお願いします」


「あぁ、こちらこそよろしく。それにしても……他に呼んだメンバーが無礼を働いたようだ。済まないね」


「いえいえ、イグラスさんは悪くありませんよ。巣を潰すにはある程度戦力が必要ですからね」


仮にティールとラストだけでコボルトとオークの巣に乗り込んだとして……全ての個体を潰すことが出来るのか。

それは二人とも断言は出来ない。


コボルトとオークが完全に二人を殺す気で襲いに掛かれば戦力的には問題無いが、二人の強さに恐れをなして逃げ出す場合がある。

いくら野生の中で育ってきたモンスターとはいえ、圧倒的な強者には怯えという感情を抱いてしまう。


そんな流れで逃げだしてしまった個体がまだ冒険者に成りたてのルーキーの元に行ってしまった場合……碌な装備、戦力を持たなければほぼ確実に殺されてしまう。


そういった他の同業者に危機を与えてしまう様な状況を避ける為に、巣を潰すには基本的にある程度の戦力が必要となる。


「それに、ラストが睨み返してくれたんで」


「はっはっは、そのようだね……正直、身震いしたよ」


「……」


部屋の中で殺気に近い感情を漏らしたことに対して、ラストは特に謝らなかった。

自分の主人を嘗めた目で見る様な相手に容赦する必要はない。


本来であれば一発かましても良いという気持ちが心の中にあったが、そんなことをすればティールの顔を潰すことになると思い、相手を威圧するだけに留めた。


「後、もう一つのパーティーが来れば全員集合、ですよね」


「そうだね。皆時間は守るようにしているから、ちゃんと時間までには来ると思うよ」


冒険者たるもの、時間厳守が必然。

依頼によっては他の冒険者と合同で仕事を行い、依頼者と共に行動することもある。


そんな時に大遅刻をしてしまえば、遅刻した冒険者だけではなくパーティーの信用が落ちてしまう。


(多分、主力と考えられているメンバーは既に来てるよな。主力が時間内に来てるのに、そうでないパーティーが遅れて来たら印象が悪くなるだろうし……イグラスさんの言う通り後少し経てば来るよな)


イグラスの言葉通り、最後のパーティーが時間内に現れ、これ以上空気が悪くなることはなかった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る