一緒とは言えない
「なるほどな……もっと投擲の訓練に力を入れるか。そういえば、二人はニーナさんたちに会ったんだよな」
「あぁ、そりゃヴァンパイアの戦闘に首を突っ込んだわけだからな。帰ってから飯奢ってもらったし」
先輩冒険者が後輩に飯を奢ることはよくあることだが、ヴァンパイアの件に関してはティールとラストが戦いに割って入らなければ殺されていた可能性が高い。
それを考えると、ニーナたちは一回ご飯を奢るだけでは恩を返し切れないと思っていた。
ヴァンパイアの素材は勿論ティールたちのものだが、それが命を助けられた礼にはならない。
自分たちはヴァンパイアが召喚したレッサーヴァンパイアを倒しただけで、本体のヴァンパイアはラストがティールから借りた斬馬刀とソードブレイカーで見事打ち取った。
二人がまだこの街にいると聞いたので、五人はどこかで恩を返すことが出来たら思い続けている。
「どうだった?」
「どうだったって……何がだ?」
「だからさ、ニーナさんかシルさんかセイラさん……三人の内、誰か一人ぐらい気になると人がいたかってことだ」
「ッ!?」
フィリックからの問いにティールは口の中の物を吹き出しそうになったが、なんとか前方に飛ばしてしまうことなく、喉に押し込むことができた。
「えっと……三人とも綺麗だとは思ったけど、気になるとかは……どうかな」
一瞬表情は崩れたが、直ぐにポーカーフェイスに切り替える。
表情が崩れたのは一瞬だったので、二人はもしや……と勘ぐることはなかった。
(……友人とはいえ、マスターはそういった内容をあまり零さないタイプのようだな)
マスター……ティールがニーナを意識しているのを知っている。
知っているが、どうやら他人には知られたくない様子なので、空気を読んでラストは事実を漏らすことはなかった。
「俺はセイラさんだな。こう……一番母性がある気がする」
「僕はシルさんだね。エルフだからかもしれないけど、美しさが跳び抜けてると思うんだ。勿論、なんだかんだで優しさを持ってる人だからって言うのもあるけど」
ニーナが冒険者になる前は、二人ともオルアットと同じくニーナに憧れていたが、村を飛び出して都会にやって来たことにより、憧れを向ける人が変わった。
容易に変わってしまったからこそ、オルアットが本気でニーナに惚れているのだと分かった。
「皆別々なんだな。他に気になる人はいないのか?」
「そりゃ同年代とか含めればまた話は変わってくるな。でも、身近な人物で言えばセイラさんだな……まっ、身近とはいっても高嶺の花なんだけどな」
「同感だね。隣に立つにはもっと努力を重ねないと。それで、ティールは三人の中だったら、誰が一番気になるんだい!」
恋バナ好きに男も女も関係無い。
こういった話題は二人とも好きだった。
「いや、誰って言われてもな…………」
本心を隠す為なら、適当にシルかセイラと答えておけばいい。
フィリックとラックの気になる人物と被るかもしれないが、それでも二人はティールに負けられないな! と、気合が入って終わる。
だが、ここでティールは見事に……嘘が付けなかった。
「気になるかどうかであれば、ニーナさんかな」
「おっ、まさかのオルアットと一緒か」
「いや、一緒って言っても俺は単に気になる程度の話で、オルアットはガチで惚れてるだろ。全然一緒じゃないって」
自分とオルアットでは、ニーナに向ける思いの大きさに差があり過ぎる。
これは自ら断言出来る内容だった。
(気にはなってるが、ミレットの時みたいに一目惚れした訳じゃないからな……うん、思いの大きさや質に差があり過ぎる。別にオルアットのライバルになんてなるつもりないしな)
色々ある理由から、本気になる必要はないと判断している……そもそも現在の気持ちが恋なのかそうではないのか、今のところ良く解っていない。
「ん~~~、確かにそうかもな。でも、ティールが本気でニーナさんに惚れてしまったら、オルアットにとって強大なライバルになるな」
「その可能性はないから安心してくれ」
友人から恋のライバル……そんな関係の変化は全く望んでいなかった。
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