そういう人はいたのか?

朝食を食べ終えた二人は早速街の散策を始める。


普段着ではあるが、万が一が起こっても対処出来るように帯剣だけはしている。


「なぁ、昨日の夜の続きみたいなもんなんだけどさ、ラストは好きな人ができたこととかあるのか?」


「好きな人、か……付き合いたいとか、そういう感情だったのかは解らないが、異性に対して憧れという感情は持ったことがあるな」


「憧れか。オルアットと似た様な感じか。その人は……あれか、幼馴染みたいな関係だったのか?」


「幼馴染……確かに、そうかもしれないな。家は近かった気がする」


年齢は少し上だが、それでも憧れていた異性は少々男勝りな性格をしていたので、同性と変わらない態度で接していた。


だが、確かな強さを持っていたので、憧れに近い好意を抱いていのを覚えている。


「……今でも、その人のことが気になってたりするか?」


「ふむ……………どうだろうな? いまいち分からん。俺も昔と比べて強くなった……少々色々とあって、今はマスターの奴隷だがな」


奴隷として売られると分かった瞬間、どんな糞野郎に売られるのかという暗い気持ちがラストを支配していたが、ティールという全く予想していない少年と出会った。


家族や憧れの人と離れ離れになってしまい、寂しいという気持ちは確かにある。

だが、それ以上にティールというマスターと出会えて良かったと思っていた。


「そ、そうか……いずれ、お前の故郷に行ってみるか」


「マスター、別に俺のことは気にする必要はない」


「そういうなって。故郷に戻れば、その幼馴染にだって会えるかもしれないだろ」


「……マスター、そいつは先に村を出て冒険者となった筈だ。おそらくな」


「え、マジで?」


「あぁ、マジだ」


ちょっと良い雰囲気を出していただけに、それなりに恥ずかしいと感じたティール。

しかし、ここで引き下がらない。


「それじゃあ、俺がお前の故郷を見てみたいってことで」


「まぁ、構わないが……だが、無理して行く必要はないぞ」


「お前はそう思ってるかもしれないけど、ラストの両親からすればいきなり息子が消えたんだ。驚くというか……普通に悲しむだろ」


ある日突然、息子がいなくなった。

もしそんな事が起これば、驚かない親は……よっぽど屑か薄情でなければいない。


「どうだろうな。両親にはいずれ、その……憧れた人物を追って冒険者になると伝えていた。父親は元々……なんというか、緩い人だった。母親も……多少心配してるかもしれないが、いずれ帰ってくると思っていそうだ」


「あ、そう……なるほど、そんな感じなんだな」


ティールの考えはものの見事に外れた。

ただ、それでも一度はラストの故郷に行ってみようという考えは変わらなかった。


「それでも、一回ラストの故郷に行くよ。色々あって、今は俺がマスターとして一緒に活動してます、ってな。その方がお前の両親も安心できるだろ」


「……そうかもしれないな」


「絶対にそうだって。というか、憧れてた人は今同じ冒険者として活動してるんだな……なら、このまま冒険者として旅をしてたら、いずれどこかで出会えるかもしれないな」


「そうだな……もし、どこかで出会った時に恥ずかしくない自分でいたいものだ」


ティールと出会って救われた。

これから一緒に冒険者としての人生を歩みたい。


その想いは決して変わらないが、やはり憧れの人物と偶々遭遇した時、がっかりされたくないという気持ちは残っていた。


「ラストは今でも恥ずかしくないと思うけどな。中身や外見、隙なしって感じだと思うが」


「中身や外見も大事かもしれないが、やはり俺としては戦いにおいての強さが誇れる部分だと思ってる。そうだな……せめて、自分の力でヴァンパイアに勝てるぐらいには強くなっておきたいな」


先日、ラストはヴァンパイアとの勝負に勝利している。

だが……本人はティールから借りたブラッディ―タイガーの素材を使った斬馬刀とソードブレイカーあってこその勝利だと思っており、自分の力でBランクモンスターであるヴァンパイアに勝ったとは一ミリも思っていない。


「拘るなぁ~~~。まっ、明確な目標があるのは良いことだと思うけどな」

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