やはり死守したい

「ふぅ……結構勝ったな」


最初にルーレットを始めてから約三時間が経過し……ティールは七割方の勝負に勝ち、資金は最初の頃と比べて五倍ほどに膨れ上がっていた。


「おいおい、あの子供いったい幾らのチップを持ってるんだ?」


「まだ完全に子供、だよな?」


まだまだ子供も子供。十二歳の少年だ。

しかし持っているチップの金額がえげつない。


「戦闘の腕だけではなく、まさかギャンブルの腕まで高いとは」


「運だけ……って訳じゃないよな」


少年の正体が街を救った英雄、ティールだと知っている従業員たちもその強さに驚きを隠せないでいた。


ビギナーズラックというのは、基本的に全員に訪れる最初の幸運だ。

今日初めてギャンブルを体験しているティールにも、それが訪れていると考えられる。


だが、ティールの賭け方を見てきたディーラーや職員たちは完全な素人では無いと感じた。


(まだ十数歳の子供がここまで上手くやるとは……もしかして知り合いに遊び人でもいるのか?)


そう思ってしまう程、ティールの遊び方は素人感が抜けていた。


ポーカー、バカラ、ブラックジャック、ダイス。

そして最終的には一周してもう一度ルーレットで遊び、最終的には大勝ちした。


そんなティールに嫉妬した一人の遊び人がいちゃもんを付け、絡もうとしたが傍にいた職員に一瞬で押さえつけられ、裏へ連れていかれる。


そして当然……ボコボコにされて店の外に放り出された。


(……もう、結構遊んだな。それなりに楽しい場所だっていうのは分かったし、もう今日はこれぐらいで良いかな)


勝ってる時に止める。

それが儲ける為の条件だとジンから教わった。


ティールとしては今回の来店で、ギャンブルを楽しめれば問題無いと思っていた。

しかし儲ければ儲けるほど、その儲けを死守したいという気持ちが大きくなる。


まだまだカジノで楽しめる時間は残っているが、ティールはせっかく稼いだお金を失うのはもったいないと思い、チップを現金に換金する。


「すいません、このチップ全て現金に換えてください」


「ッ……か、かしこまりました」


子供が持つに明らかに高額なチップの量。

目の前の相手が誰なのかをバニーガールの職員たちは知っていたが、それでも戦闘経験のない者は広まっている話しに疑問を持つ。


そして目の前に置かれているチップの量にも……疑問を持たざるを得ない。


(び、ビギナーズラックに当たったとはいえ、ここまで上手く稼げるものなの? もしかして最初からかなり深くルールを知っているなら……悪い大人が幼い頃、傍にいたのかもしれないわね)


……間違ってはいない。

歓楽街での遊び方は、全てジンがティールに教えた。


まだ女性との絡みにそこまで興味は無いが、ギャンブルについては元々興味があり、今回実際にカジノに行ってある程度楽しさを学んでしまった。


そして初体験にも拘わらず、ティールは大金を稼げてしまった……そう、ギャンブル依存症になってしまう者が体験する感覚を得てしまった。


(カジノに入るのに基本的には制限がないけど……こんな幼い頃から遊び始めて大丈夫かしら?)


貴族の令息がティールより少し上の歳からカジノで遊び始めるのは、そこまで珍しくない。


ただ……自分の欲をある程度抑えられる者でなければ、若いうちからギャンブルにハマってしまう。

貴族の令息であれば、金に困ることはまずない。


なのに、ギャンブルで簡単に金を得た時の快感に囚われてしまい……若くして人生を破滅させてしまうケースは少なくない。


しかし、ティールの場合はギャンブルで稼がずとも、モンスターを狩っていれば毎日貯金できる程度のお金は十分に稼げる。


そういった自信もあり、ティールは自分がギャンブルにハマらないと断言出来る。


「こちらが換金額になります」


子供だからといって、金額をちょろまかす様な真似はせず、きっちり揃えて渡した。


「ありがとうございます」


何倍にもなった金貨を受け取り、ティールは浮かれた気分のままカジノから出た。

そして……その後直ぐに数名の客がカジノから退出した。

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