認めても、悔しさはある
「…………」
「緊張してんのか、エリック」
「そう、だな。緊張していないと言えば嘘になる」
周囲を確認すると、ルーキー達の表情には大なり小なり緊張の色が出ていた。
今回自分達が対峙する相手はゴブリンとはいえ、数は五十を超えるかもしれない。
そして群れの中には上位種、もしかしたらジェネラルがいるかもしれない。
数の脅威と質の脅威。
二つの脅威に対して緊張しない訳がない。
だが、そんな中でティールだけがいつもと変わらなかった。
「そうか……自分達の役割をもう一回思い出せ。先輩たちが面倒な敵は潰してくれる。俺達は漏れた通常種を潰すだけで良いんだ」
その通りだ。上位種はジェネラルはDランクやCランクの冒険者達が相手をしてくれる。
ルーキー達が相手をしなければいけない相手は、自分達の実力を発揮すれば問題無く勝てる相手。
それを忘れかけているからこそ、恐怖心が大きくなっている。
「へっ、俺だったら上位種だろうがジェネラルだろうが関係ねぇよ!!!」
「……吠えるの勝手だけどな、連携を崩す様な動きをするなら無理矢理行動不能にするからな」
「なっ!? ふ、ふざけんなよ!!! 俺を殺す気か!!!!」
「お前みたいに好き勝手に動こうとする奴の方が他の連中を殺す切っ掛けになる。言っとくが、お前が暴走した際に気絶させる許可は既に貰っている……馬鹿な真似はするなよ」
今回の討伐でティール以上に活躍しようと考えていたバーバスだったが、それが潰されそうになっている現状に拳を握りしめて俯く。
ベテラン組の表情をチラッと確認するが、特に不満そうな表情やなんでそんな事をするんだ、といった表情は一切無かった。
つまり、本当にティールが自分を気絶させる許可を貰ているという事だ。
「エリック……一つだけ言っとくぞ。もし仮に戦況が乱れて危機的状況になったら俺一人で敵を潰す」
「……ふふ、異論はないよ。なら、僕達は君が戦っている間、ゴブリン以外のモンスターが襲ってくるかどうかを警戒しておいたら良いんだね」
初めてティールと出会った時は自分と同等か、少し弱いぐらいの実力を持っているのかと思っていた。
でもそれは完全に間違っていた。
自分達とは比べ物にならない程に遠い場所に立っていた。
そして今も走り続けている。
認めるしかない。ティールは自分達よりも遥かに強い。
危機的状況に陥った場合、ティールの力に頼るしかない。
冷静に自分達の戦力を見極めているエリックにガレッジは賞賛を送る。
(冷静な判断だな。エリック……ルーキーの中でも特に抜きんでた実力を持っていた奴だ。歳下で後輩でもあるティールに無駄に動くなと言われてプライドが傷付けられたと思っていたが……いらない心配だったな)
全く傷付いていない訳じゃない。
ただ、ティールに対しての苛立ちは無い。
苛立ちの感情を向けているのは……自分に向けてだった。
それをガレッジは見抜いていた。
(冷静な判断は下せているが、強さへの執念は消えていない、か……はっはっは!! こいつは将来大物になるかもな)
自分の実力は把握し、その場で適切な判断が下せる。
それでも自分が戦闘に参加出来ないという状況に悔しさを感じている。
冒険者としてベテランと呼ばれる域まで活動を続けてきたガレッジには解かる。
その二つの感情を持ち合わせている者は生き延び続ければいつかは大物になると。
(こりゃ俺達が抜かれるのも時間の問題かもな)
しかし今は自分達の方が立場も実力も上だ。
先輩として、為すべき仕事は達成しなければならない。
だが、やはり心配の種は残っていた。
(エリックに対してバーバスの奴は……今回の討伐に連れて来たことは失敗だったかもな)
ベテラン組から暴走した際にティールが気絶させる許可を貰っている。
その事実をバーバスは心底気に入らなかった。
それは負の感情が駄々洩れの眼でティールを睨んでいるバーバスを見れば一目で解る。
だが、もう直ぐ敵が待ち構えている場所に辿り着く。
ここであーだこーだ考えても仕方ない。
ガレッジは実戦が始まってからのバーバスへの対応は全てティールに任せようと完全に決めた。
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