ギリギリ残っていた理性
ティールとの差を明確に突き付けられたバーバスは怒りと悔しさに拳を握りしめて震える。
(俺が……この俺が、こんなガキよりも弱いだと!? ふざけるな……ふざけるな!!!! さっきの戦いは何かの間違いだ! 次、もう一度戦えば俺が勝つ、もう一度戦え、ば……)
伏せていた顔を上げたバーバスにティールの冷めた眼が入る。
弱いお前に興味は無い。なんでお前みたいな奴が粋がってるんだ。さっさとこの場から消えろよ……そんな風に眼が語り掛けている様に感じた。
そんな眼が更にバーバスの怒りのボルテージを上昇させ、その場で殴り掛かりたい衝動に駆られる。
ただ、そんな既に感情が噴火しているバーバスにも一ミリほどの冷静さは残っていた。
今この場でティールに殴り掛かって問題を犯せばゴブリンの群れを討伐するチームから外されるかもしれない。
仮にそうなってしまったら、ティールに手柄を取られてしまうかもしれない。
バーバスの目標はAランク冒険者という頂きまで上り詰めること。
こんな所で躓いていられない、そういった思いがあった。
「~~~~~~~~ッ!!!! クソがッ!!!!!」
大声を上げて怒鳴ると、バーバスは速足で訓練場から去って行った。
その後に続いてバーバスのパーティーメンバー達も付いて行く。
「……なんなんだ、あいつは?」
「今までルーキーの中じゃ、エリック以外に一対一で負けたことが無かったのよ。それであんなに悔しがってるのよ」
「そう、か」
(多分それだけじゃないと思うけどな)
リーシアは同じルーキーの異性からモテる。
それは事実だ。バーバスはリーシアに惚れていた。
だが、リーシアの意識がエリックに向いているという事は解かっていた。
いつか……いつか必ずエリックより上に行った時、自分の思いを伝えよう。
それまで、エリック以外の男には負けたくない。そんな思いを持っていた。
現実的に考えればエリックよりも強い冒険者は大勢いる。
これからエリック以外の男に負けないというのは普通に考えれば無理な話だ。
だが、それでも同じルーキー以外の奴には負けないという誓いに近いものがあった。
ベテランの冒険者達はバーバスの戦いぶりに大してがっかりしていた。
それはバーバスの粋がり様を考えれば納得の反応だが、ルーキーの中でバーバスが弱いという訳ではない。
寧ろルーキーの中では上位の強さに入る。
そんなバーバスに圧勝してしまうティールの強さが異常なだけ。
ただ……そうであったとしても、エリック以外のルーキーに……自分より歳下の男に負けたという結果がバーバスのプライドを大きく傷付けた。
「お疲れ様、ティール。圧勝だったね」
「そりゃあいつが大剣をブンブンと振り回していただけだからな。避けるのは簡単だ。エリックに対しても強気な態度を取っていたからもう少し強いと思っていたけど……なんどかある意味予想外だった」
「ふふっ、ティールはそう言うけれどあの体格で大剣を振り回されるとそれなりに圧があるんだよ」
エリックの言葉に残っていたルーキー達が揃って頷く。
(……俺が初めてグレーグリズリーと遭遇した時と同じような感覚なのか?)
そんな感覚よりは少しマイルドではあるが、それなりに迫力があってまともに食らっては吹き飛んでしまう。
ティールが思っている以上にルーキー達にとってバーバスは強者に近い存在だった。
しかし、今はそんなバーバスと戦って汗一つ流さずに勝利したティールに得体の知れない強さを感じていた。
「そういうものか。確かに体はデカかったな。あれに技術が加われば面倒なのは確か」
「その通りだね。でも……今までは力で押し勝つことに執着を持っていたみた。でも、もしかしたら今日の模擬戦を終えて考えが変わるかもしれない」
「どうだろうな、そんな簡単に考えが変わるようなタイプには思えないけど……まぁ、俺はあいつがゴブリンの群れの討伐時にやらかさなければどうでも良い」
当初はエリックとリーシアがイレギュラーに巻き込まれないか不安であったが、今はバーバスが問題を起こして自分達が巻き込まれないかが心配だった。
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