参加決定

ティールがゴブリンの群れの討伐には絶対に参加しようと決めた日から数日後、ギルドから正式に情報を知らされた。


街から徒歩で二日ほど掛かる距離にゴブリンの巣が発見された。

数は百近い。ただ、相手がゴブリンという事もあって上級冒険者は殆ど参加しない。


指揮官をなるパーティーとジェネラルの相手を行うパーティーと全体の補佐を行うパーティー。

全部でDランク以上のパーティーは四つ。


その他は全てEランク以下のパーティーが参加することになった。

その中には当然ティールは含まれており、エリックとリーシアも参加する予定だ。


(Dランク以上の冒険者が少ないのは報酬の問題があるかもしれないけど、単純に低ランク冒険者の稼ぎ時を奪うのは宜しくないと思ってるのかもな)


ティールの考えは百点満点。モンスターの群れの討伐とはいえ、相手がゴブリンでは大した報酬は出せない。

勿論ゴブリンジェネラルを倒せば特別報酬があるが、まだまだ右も左も解らないルーキーを引き連れる労力を勘が合えると、割に合わないと思う者もいる。


そして中には正常な考えとして、自分達が参加してルーキー達の生活費を奪いたくないと思っている冒険者もいた。


ギルド職員から軽く話を聞き、討伐に参加する意思を伝えてからギルドを出ようとしたところでエリックに声を掛けられる。


「ティール、ちょっと良いかな」


「エリックにリーシア……どうしたんだ、飯か?」


昼食を取るには悪くない時間だが、エリックの用はご飯の誘いではない。


「ご飯はまだ後でだね。今日は一緒に討伐に参加する同期を紹介しようと思ってさ」


エリックの後ろには二十人ほどのルーキー達が立っていた。


「後ろの奴らが全員ゴブリンの巣の討伐に参加するって訳か」


「そうだよ。当日は一緒に行動する訳だから少しでも面識があった方が良いかと思ってさ」


ティールとしてはそこまで多くの者と関わる気はないので、後ろに立っている連中などどうでも良い。

大して気を惹かれる者はいないが、せっかくの友人からの好意に応えることにした。


「ありがとな」


「おいおい、本当にこんなガキがグレーグリズリーを倒したのかよ」


エリックの後ろに立っていた長身の男がティールを見下ろしながら前に出る。

そして二人から聞いていたティールというルーキーの実力と、目の前の少年が本当に同一人物だとは思えなかった。


「バーバス、本当よ。私とエリックが追い詰めていたとはいえ、ティールは一撃でグレーグリズリーを倒したのよ」


「へっ、二人のおこぼれを貰ったって事だろ」


バーバスの言葉に後ろに立っているルーキー達の大半が同意するように頷く。

ティールよりも冒険者としての年数は当然長いが、実戦経験はティールより断然低い。


故に、ティールの実力を解る者などいなかった。


(……年齢がいくつなのかは分からないけど、確かに身長は高いな。百八十半ばぐらいか? それにガリガリという訳ではなく、しっかりと肉も付いている……ルーキーの割には傲慢になるだけの力があるんだろうな)


だが、初めてグレーグリズリーと出会った時の様な恐怖は感じない。

それだけで目の前の男が自分にとって脅威になる者では無いということが解る。


「バーバス……君はティールが弱いと言いたいのか」


友人を馬鹿にされたエリックの怒りのゲージが徐々に高まり始める。

しかしそんな同期の中のエースが不機嫌になっているのにも拘わらず、バーバスの口は止まらない。


「いいや、お前が嘘を言ってるとは思わないぜ。俺はお前やリーシアの実力を認めてるしな」


上から目線なセリフだが、実際の戦力はバーバスよりエリックの方が上だ。

だが、体が多きという要因で今まで大した訓練をせずとも勝ってきたバーバスとしては、そんな自分を打ち負かしたエリックにライバル心を抱いている。


そんな男が自分より強いかもしれないという男が目の前の小さな少年というのだから、なんの冗談だと鼻で笑ってしまう。

小さな怒りすら芽生えていたが、それはグッと抑えていた。


「でもな、こんな俺達より歳下のガキが俺達より強いなんて考えられないんだよ。普通はな」


これまた後ろに虎の威を借りる狐のように立っているルーキー達の中で力に自慢のある者達は頷く。


(……なんかちょっと面倒だな。サクッと力の差を解らせれば黙るか?)

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