その呼ばれ方は恥ずかしい
基本的に村の外に出てモンスターを狩り、そうで無い日は自主練と親の手伝いをするティール。
しかしそんな彼を見たティールより幼い子供達は何をしているのか興味を持つ。
それに対してティールは真面目に答える。
モンスターを倒すために訓練しているのだと。
村の為にモンスターや盗賊と戦う自警団の存在はやはり小さな子供達にとっては憧れの存在であり、それに少し近い存在を目指しているティールも自然と凄い人なのかと思ってしまう。
ティールと話すようになった子供達はまだ三歳から四歳。
まだギフトは貰っておらず、自分が何に特化しているのかなど全く分からない。
そこでティールは誰にでも出来る投擲の訓練を教えた。
的はティールが自作で用意する。
子供達にも分かりやすいように投擲の大切さを教えるティールに対し、子供達もなんとなくだがその大切さが伝わった。
比較的自身が怪我をする可能性が低い訓練だが、それでも怪我をするかもしれないという事と人に向けて石を投げてはいけないという事も十分に伝える。
そして時が経つにつれてティールは子供達から師匠と呼ばれるようになった。
「師匠!! 師匠は、なんでそんなに上手く石を投げれるんですか?」
「なんでと言われてもなぁ……投擲のスキルを持っているからだとしか言えないな。投擲のスキルを習得し、スキルのレベルを上げていけばコントロールの精度も上がり、速さも上がる」
そう言いながらティールは適当な方向に向かって石ころを投げる。
しかし石ころは途中で大きく方向転換して木の的に命中。
「こんな感じだ」
「おぉ~~~~ッ!!! 凄い! 超凄いです!!!」
現在ティールの傍にいる子供は一人だけ。
全員が全員暇という訳では無く、ティールがモンスターを狩りに行くこともあって毎日の様に子供達の面倒を見ていない。
「それと……こんな風に石ころに魔力を纏わせれば、こんな事も可能になる」
今度は村の中に生えている大きな木に目がけて投擲。
放たれた魔力を纏った石ころは木を突き抜けることは無かったが、大きくめり込んだ。
「す、凄い……ぼ、僕も大きくなったら出来るかな?」
「あぁ、出来る筈だ。魔法が使えなかったとしても、魔力が無いって訳じゃないからな。でもな、ロウ。投擲の威力を試そうとして村の外に出てモンスターを倒そうなんて事だけはするなよ」
「はい!」
「良い返事だ。俺と同い年の奴らがそれをして自警団が必死に探す事件になったからな。ロウも大人達に怒られるのは嫌だろ」
「物凄く嫌です」
マックス達三人が村の外に出て迷子になり、大人達の世話になった話は最近では有名な事件であり、三人はそれでからかわれることも少なく無い。
当然ロウもその話を両親から聞いたことがある。
「でも、お前が自分はこういうことが出来ますって実力を見せれば狩をしている大人達も連れて行っても良いと思うかもしれない」
「なるほど! その為には、体も鍛えないと駄目なんですよね」
「そういうことだ。まっ、あんまり無理しない程度に頑張れよ」
「はい!!!」
ティールには現在慕っている子供達が複数いるが、全員が素直に言う事を聞いている。
それは単純にティールに練習光景が凄かったという事と、自分達を心配してくれているという思いが親のものと同等に感じられたからだ。
それを子供達の両親も理解しているので、子供達がティールのところへ行くと言う時は特に心配せずにいってらっしゃいと答える。
「子供達に大人気ね先生」
「からわかないでくださいよリースさん。普通に恥ずかしいんですから」
「でも親御さんたちの間では評判が高いわよ。ティールは面倒見の良い子だって」
ロウと別れたティールは閉店中のリースの元を尋ね、二人でのんびりと紅茶を飲みながら喋っている。
「それは確かに嬉しいですけど、俺だってまだまだ人に何かを教えられる程偉くもないし、実力も無いですよ」
「偉いかどうかは置いといて、実力は十分にあるじゃない。あなたの年齢を考えれば圧倒的なまでの実力よ。同年代で天才だって騒がれてるレント君なんて余裕で倒せるでしょ」
「それは……まぁ、そうかもしれませんけど」
三歳の頃は恨めしいと思っていた存在であるレントは着々と剣術の腕を上げ、なんと光魔法の才能もあって徐々にだが魔法を覚え始めている。
それを聞けば確かにレントは天才という言葉が似合う子供だろう。
しかしリースはレントが天才ならばティールは鬼才と言える存在だと確信している。
ティールは一度もレントと模擬戦すらしたことが無いか、偶に遠目から見るレントに恐怖心は感じなかった。
(グレーグリズリーの時の様な恐怖心を感じる様な相手じゃ無いし……うん、もうどうでも良いといえばどうでもいい相手だな)
ミレットの事など頭から完全に抜けていたティールにとってレントはライバル視することなど無い相手だ。
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