経験値による差
「そういえば、ティールはリースさんに師事を受けてるんだろ」
「そうですけど……そんな話どこで聞いたんですか?」
「マックスの奴がぐちぐち言ってたぞ。なんでなんなギフトを持ってない奴がうんたらかんたらってな」
リースは魔法のギフトを得た子、もしくは魔法の才能がある子に授業を行っている。
しかしそれはある程度の人数を纏めての授業だ。
ティールの様に一人だけに授業を行ったりはしない。
「良かったら俺が相手になってやろうか?」
「……別に俺レントと違ってジンさんの弟子じゃ無いんですけど」
「別に軽く模擬戦をするのに弟子とか関係無いだろ。大丈夫だって、怪我しない様に手加減するからよ」
明らかに自分を下に見る発言。
しかしその言葉にティールは怒りを感じたりはしない。
(総合的に見ても俺はこの人に劣るだろう。手札は俺の方が多いとしても、単純な身体能力の差が開き過ぎている)
村で自警団の一員になってからジンは腕を鈍らせない為に鍛錬を怠らず続けている。
強敵と戦う刺激的な日々こそ無くなったが、その経験値と実力はまだ衰えていない。
「……分かりました。よろしくお願いします」
こうして急遽ジンと模擬戦を行うことになったティールは内心少し楽しく感じている。
(リースさんとしか模擬戦をしたことが無いから、他の人との模擬戦は楽しみだな。でも、あんまり奪取≪スナッチ≫の存在をバレない様にしないとな)
今回の模擬戦で使っても良いスキルを整理し、構える。
体を半身にして左手を前に出し、右手に持つ木剣を肩に乗せる。
剣術の基礎すら身に付いていない様な構えだが、ジンがそれを馬鹿にすることは無かった。
(……普通に考えれば対人で構える様な形じゃないが、妙に慣れている)
普通とは違う。そんなティールの構えを見たジンの表情が少し険しくなる。
お互いに準備が済み、まずはティールから仕掛けた。
強化系のスキルは使わずに走り出し、木剣を縦に振るう。
「ッ!! 中々速いんじゃないか」
「それはどうも」
ティールの脚を速いと褒めながらも余裕で木剣を躱すジン。
表情こそ先程までの余裕があるものに変わっているが、内心では驚きまくっていた。
(おいおい、確かこいつは戦闘系のギフトを貰っていないんだよな? もしかして隠しているのか? でも普通に考えれば隠す必要は無いし……分からねぇな)
ティールの斬撃を何度も躱じながら何故ここまでの速さを得ているのか考え続ける。
(身体強化系のスキルを持っていてもおかしくは無い。無いんだが……それを使ってる様子はない。という事は、単純にレベルが上がってるって事か)
モンスターや人を倒すことでモンスターも人も自分の壁を越えて次のステージへと上がる。
レベルが上がれば身体能力が向上し、五感を意識的に強化出来る限界値が上がり、魔力の総量も増える。
(ティールの歳で倒せるモンスターがいないことは無いが、にしてもこいつの歳を考えれば妙に戦い慣れてる。リースさんは店も開いてるんだし、そこまで毎日稽古を付ける時間は無い筈だろ。もしかしてこいつは一人で森の中に入って毎日モンスターを狩ってるって言うのか?)
基本的には毎日モンスターを狩り続けているティールの経験値は相当積まれており、単純なレベルではランクの低い冒険者を超えていた。
歳が十五程になり、体が大きくなれば今と同じレベルであっても今よりジンを追い詰めることが出来るだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……流石、元冒険者ですね。全く当たらない」
「そりゃこれでも現役時は良いところまで上り詰めたからな。だが、本当に凄いのはお前だぜティール」
「それはどうも。褒めて貰って嬉しいですよ」
「ならもうちょい嬉しそうな顔をしろよ」
分かってはいた事だが、自分の剣が全く当たらない。
その事に苛立ちが募っているティールの表情には少々悔しさが表れている。
「すーーー、はーーーー、すーーー、はーーーー・・・・・・それじゃ、もう一回」
今度は身体強化のスキルを使い、先程よりも速さと力を上げてジンに斬りかかる。
一段階スピードとパワーが上がったティールの猛攻にジンは冷静に対処する。
だが、どうせならティールの様に木剣を持っていたらと後悔した。
(身体強化を使った事でスピードとパワーも一段階上がったか。こりゃ完全にレント達より実力は上だな。ギフトによる才能とか関係ねぇ。単純な経験値が違い過ぎる。あいつらと比べてティールは戦う者として何歩も先に行ってやがる)
まだ速さには余裕があるが、思った以上に途切れないティールの猛攻にジンは舌を巻く。
そこでそろそろ反撃に移ろうと考えたジンはティールの木剣を素手で捌こうとする。
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