第8話 側仕えと営利活動、そして慈善活動

 更衣室で着替えながら大きなため息を吐いた。

 せっかくの休日なのにかなり疲れることになったためだ。

 一番の問題は腰に隠して入れている短剣だった。


「これって絶対高いよね? どっかで返さないとな」


 分不相応な物はいつか自分に災いがやってくると耳を酸っぱく言われてきた。

 自分もそう思うので返したいが、一体どこの誰かも分からないのでもやもやとした気持ちが残るのみだ。

 気に掛かってしょうがないがそれでも仕事はしないといけない。

 といっても今日の仕事はいつもと違っており、私はこれほど辛い業務はないと思う過酷なものだ。

 蝋板という木製の書字板を渡されて必死に基本文字を書かされているのだ。



「エステルさん、その文字は違います。もう一度書き直しなさい」

「はい!」



 とうとう全く文字が読めないことがバレてしまった。

 これまでは文字が読めなくても生きていけたが、貴族の側仕えになった以上は主人の代行をすることもあると言われた。

 自分の名前だけはかけるため、よくわからずにサインをしてしまうと取り返しが付かなくなる。

 ただやはり椅子に齧り付いて勉強というのは辛いものだ。


「それが終わりましたら計算の勉強もしますからね」


 頭が破裂してしまう。

 買い物のために簡単な計算はできるが、大きな数や複数の数を足し合わせるのは苦手である。

 そばでサリチルの業務を見ることができたが、かなり早く計算していく姿は尊敬してしまった。

 まるで永遠のように感じられる時間も終わりを迎え、サリチルは苦い顔で書字板を見ていた。


「これはかなりやりがいがありますね。ですがこれ以上は業務に差し障りますので、また明日にしましょう。今日はまた掃除をお願いします」

「分かりました!」


 元気よく立ち上がって解放されたことに喜びを感じる。

 やはり頭を使うより、体を動かす仕事の方がいい。

 しかしサリチルは頭を押さえており頭が痛いようだった。



「サリチルはいるか!」



 執務室のドアが開かれてレーシュが直々にやってきた。

 かなり慌てているようで、木簡を複数持ってきてそれを机に並べた。

 たくさんの文字が書かれており、見るだけで気分が悪くなってきた。



「収穫や流通から考える収益が実際の年貢にそぐわない。どう考えても脱税がある」



 レーシュは徴収官として平民の年貢を管理しているらしく、サリチルとよく難しい話をしている。

 木簡に書かれている何人かの名前はおそらくは大店の責任者の名前だろう。

 お金をしっかり納めないと、こんな風にバレてしまうのだと他人事のように感心した。

 中身を簡単に見て、サリチルもすぐに状況を理解したようだ。



「これは調査が必要ですね」

「そうだ。ある程度裏が取れたら俺が出向く」

「かしこまりました」



 足早にサリチルは部屋を出ていく。

 レーシュはまた元の部屋に戻ろうとする前に私へ命令する。


「紅茶を持ってきてくれ。ハイビスカスだ、あと何か軽食をもってこい」

「かしこまりました」



 キッチンに向かい、疲労回復に良いとされる赤い紅茶を作る。

 サリチルから教えてもらったおかげで簡単な紅茶はすぐに淹れられるようになった。

 あとは簡単な軽食とのことだったが、りんごがあるのでそれを切り分けて持っていこう。



 ──それにしても、ああ見えてしっかり仕事ってしてるんだ。



 初めて会った時のことでかなり嫌な印象を持っていたが、仕事に関しては真摯に行っていた。

 貴族というのは平民の稼いだ上前をはねるものという認識が強い。

 しかし貴族もそんな輩だけではないようだ。

 準備も終わりすぐに部屋までワゴンを押していき、レーシュの机の上に静かに紅茶を置く。

 黙々と仕事をしているため私も黙って部屋を出ようとした。


「おい」


 珍しく声をかけられたことに驚く。

 ただ口を開けば悪口を言われるので手短に済ませてほしい。



「昨日、平民の市場でネフ──貴族の馬車が暴れたらしいが知っているか?」



 フェニルと一緒に買い物に出かけた時のことだろう。

 知っているも何もその現場で貴族を助けたのは私だ。

 ただ面倒事を避けたいがために当たり障りのないことを言ってしまう。



「はい。かなり大きな事故で騒ぎになっていました」

「そうか。それで質問なんだが平民でその貴族を見事に助けた者がいるらしい。それもとても可憐な女性だったと聞く。心当たりはないか?」


 ──貴方様の気に入る女じゃないですよー!


 心の中で舌を出してレーシュを馬鹿にする。

 しかしまさか可憐という言葉がつくとは嬉しいものだ。

 ただ私と自白してしまうとまた語彙が豊富な悪口を言われるだろう。



「残念ながら知りません」

「そうか。その貴族が探しているらしいから見つけて報奨金をもらおうか考えたのだがな。かなり身のこなしだったらしいから、おそらくは冒険者とかの類だろうが、いや、もういい。下がれ」



 あまり期待はしていなかったのだろう。

 もう用はないと仕事に戻ろうとしたので、最後に伝えておこう。



「脱税を取り締まるなんて見直しました」

「はぁ?」


 突然の褒め言葉にレーシュは顔を上げて訝しげな顔をしていた。

 あまり話さない私から褒め言葉をもらったので聞き間違いかと思ったのだろう。

 嫌われ者だから他の人からこんなことを言われないだろうから、私くらいは感謝を伝えるべきだろう。



「お金を稼いだのに税を入れてない人間を取り締まるなんて立派だと思います」



 私はもう一度言うと、レーシュは突然笑い出した。

 何もおかしなことを言っていないのに一体どうしたことか。

 ポカンとしている私は彼の笑いが止まるのを待っていた。



「何を言い出すかと思えばくだらない」



 その顔はいつもと同じ馬鹿にした顔だった。

 どうして褒めたのにそんな顔をするのだ。


「くだらないって、一体どういうことですか?」



 レーシュは立ち上がってわざわざ私の前へやってきた。

 その顔は私を見下しているようで、人差し指を喉元へ突き出す。


「いいことを教えてあげよう。俺がやるのは仕事だが慈善活動じゃない! 利益を含んだ営利活動だ!」


 まるで私の甘さを指摘しているようだ。

 この時はその言葉の意味を理解出来なかったが、すぐにそれを理解するのだった。


 三日が過ぎて、レーシュに仕事で付き添うことになった。

 馬車に乗って貴族が住まう貴族街から平民の街へと向かっていく。

 お昼のため人通りも多い場所であったが、私はほとんど来たことがない場所だった。

 道行く人たちのキラキラさに目を奪われた。



「こちらは初めて来ましたが皆さん身なりが良いですね」



 家の近くに住む者たちとは普段着から異なる。

 簡素であるが清麗な服装に憧れがあった。

 レーシュも一瞥したが特に何の感慨もないようだ。



「平民の中でも裕福な者が住んでいるからだろう。特に上級貴族から懇意にされていれば俺なんかよりお金を持っている大店もたくさんいる」

「お貴族様よりもお金を持っているのですか!?」



 大店も貴族もどちらとも関わりがなかったのでどちらが上かなんて考えたこともなかった。

 ただやはり貴族という特権階級なら平民より上だと思っていた。



「だがお金があろうとも平民と貴族では大きな差があるがな。それがこれから分かるだろう」



 馬車がお店の前で止まった。

 御者がドアを開くと、もうすでにお店の太った店主と従業員が待っていた。


「お越しくださいましてありがとうございます。レーシュ・モルドレッド様が足を運んでくださることを大変嬉しく思います」

「うむ、歓迎感謝する」


 公私の切り替えの早さは流石であり、若くとも当主として仕事に臨んでいることがわかる。

 店主たちも少しばかり緊張していることが私にも伝わり、脱税という違法行為をしているのだからその気持ちも分かる。


 ──不安になるくらいなら脱税なんてしなければいいのに。


 私たちはお店の中にある最上級の客室へと通された。

 こんな部屋に貴族は通されるのかと物珍しさにキョロキョロと目が動く。

 こういう部屋に慣れているレーシュはソファーに足を組んで座り、かなり威圧があるように振る舞う。

 使用人はなるべく目を合わせないように紅茶のポットからティーカップへと紅茶を注ぐ。

 後ろに立っていた私は近寄って、テーブルの背が低いので両膝をついた。

 紅茶を私がまず一口飲む。



 ──毒はない。



 こういった毒味も私の役目であり、常に危険を意識しないといけない。

 私は口にした部分を拭き取って、反対側をレーシュへと向け、また元の位置へと戻る。

 そしてさらに安全を証明するため、差し出した主人も一口紅茶を飲んだ。

 レーシュも一口飲んでから話を始める。



「デリットよ。前に書状を送ったが見てもらえたかな?」

「もちろんでございます。ただ私には何のこと──」


 レーシュが指でパチンと音を鳴らしたので、元々持ってきた木簡を私が机の上に並べた。

 書いている内容は分からないが、おそらく脱税に関する証拠だろう。

 店主も苦い顔をしており、チラチラとレーシュの顔の表情を窺っていた。


「脱税に関する法律を知っているかね、デリット」

「存じあげております。十年の禁固刑です」



 それほど重い罰なのか。

 商人について知らない私にはあまりにもきつい罰に感じた。

 レーシュは満足そうに首を頷かせる。


「そうだな。ただこれはその罪だけだ。しかし君は今隠蔽を行おうとした。困るな、業務妨害をされたのではさらに刑が延びる。そして万が一だが、他にも罪があったのならさらに罪が重くなる」

「お許しください! どうか上納金を……小金貨五枚を納めますので!」



 レーシュの含む言い方にとうとう店主も耐えられなくなっていた。

 最初から上手くはぐらかすつもりだったのだろうが、前もって準備をしていたレーシュは最終勧告を伝えるだけで十分だった。

 だが彼はまだここでは終わらない。

 レーシュは私ではない使用人に紅茶のお代わりを頼む。

 すぐさま使用人は紅茶を入れ始めたが、レーシュが左手を動かして熱い紅茶を浴びた。


「お、お許しを! すぐに拭きますので!」



 使用人は怯えながら手を拭くが、レーシュはわざと手を動かしたのだ。

 手がやけどで赤くなっており、すぐさま氷で冷やす。

 一体この一連のやり取りに何の意味があるのだろうか。



「デリットよ。上納金はお前の命の価値だ。まだまだ罪が増えるぞ」



 デリットはすぐさま立ち上がって、鈍重な足取りでレーシュの元まで走って膝と手をついて頭を下げた。



「どうか、中金貨八枚でお許しください! 本当にそれ以上はありません! あとは何人かの娘を付けますので!」



 レーシュはしばらく無言で答えなかった。

 その時間はデリットにとっても地獄の時間であっただろう。

 汗がダラダラと流れていた。

 そしてやっとレーシュも満足気に、そしてこの光景を楽しむかのように笑っていた。


「そうか、貴殿はやはり利口だ。それならこれからサリチルという私の筆頭側仕えを寄越す。そこで話し合いをしたまえ。貴殿の罪はこちらでなかったことにしておこう。記載ミスは誰にでもある。私はただその修正をしただけとな」


 レーシュも立ち上がってデリットの元まで向かってその肩に優しく手を添えるのだった。

 店主にとっては地獄の鎌のようでビクッと体を震わせた。


「私は今後の貴殿の栄達を重ねることを期待している。ただ注意したまえ、夜の世界というのは多くの夜鷹が目を光らせていることを」


 デリットは再度体を震わせて、必死な形相でレーシュへ言葉を絞り出した。


「このデリットその言葉を末代まで心に刻ませます。御身の寛大な処置に心よりの感謝を捧げます」



 レーシュは用は済んだと部屋を出た。

 馬車に乗り込み、私はレーシュの手を薬草を入れて包帯で巻く。



「あそこまでやる必要はあったのですか? 本来税金を追加で納めるだけではないのですか?」



 思いのほか言い方が厳しくなった自覚があった。

 悪党がどんな罰を受けようと言い気味だと思っていたが、流石にやり過ぎだ。

 己の得を増やすため、地位を利用してこんな悪どいことをするのなら先ほどの店主と何が違うのだ。


「言っただろ? これは慈善活動じゃない、立派な営利活動だと。早く座れ、まだ今日はあと一件残っている。お前のせいで御者も馬を出せないではないか」



 顔を上げて睨むが、どこ吹く風と相手にしてくれない。

 そんな風に稼いだお金から私の給金が払われているので、自分がまるで汚れた存在のように感じた。

 私は自分の気持ちを抑えながら、黙って席に座る。

 そしてまたもや別のお店で同じことが引き起こされた。



「さて、フェアブレッヒェン。この包帯は火傷を負っていてな。ここで起きた怪我にしてもいいのだぞ?」



 観念したようにここの店主も震えながらレーシュの要求を全て呑んだ。

 まるで悪魔のように相手の心をへし折っていった。



「どうして娘まで所望されるのですか? あの男だけを捕まえればいいではありませんか」

「またその話か。稼げる人間とは経済を回す人間ということだ。あれくらいの大店ならそういった魔が差すものだ。いちいち捕まえていたらキリがない」


 まるで絞れるだけ絞り出すつもりのようで、貴族と平民との格差を知る。

 私の言葉では何一つ響かないようだ。

 その後に屋敷まで十人ほどの綺麗なドレスを着た美人たちがやってきた。

 先ほどの店主から遣わされたらしく、吐き気を催すことが起きるのは想像に難くない。

 レーシュから別室に案内するように言われていたので、震える彼女たちを客間に待たせた。

 寒い季節であるため、少しでも不安を取り除くために部屋の中の暖炉を付けてあげたのだった。

 女性たちは震えながら身を寄せ合っていた。


 ──もう我慢できない。


 私はサリチルの執務室まで早足で向かった。

 この屋敷で話が通じるのは彼だけだ。

 部屋へ入る前に一度深呼吸してノックをした。

 返事がきたので私は入室する。


「どうかしましたか? かなり思い詰めた顔をしているようですが」

「どうもこうもありません! 私は今日限りで辞めさせていただきます!」


 エプロンを外してサリチルの机の上に置いた。

 本気で怒っていることはわかってくれたようで、一度そのエプロンを手に持った。


「私は弟の治療のためにこの屋敷で働かせてもらいましたが、こんな悪魔のようなやり方で稼いだお金なんて欲しくはありません! もらった賃金も稼いでから返します」



 これが私なりにできる矜持だった。

 弟のために何でもする覚悟だったが、想像を上回るほどの下劣なやり口にもう付いていけない。

 少しはまともな貴族だと思っていたのに、噂に聞く貴族そのものではないか。

 サリチルは私を見つめていた。



「そうですか、ただ今日の仕事まではしっかりお願い致します。そしてそれを見てから判断してください。あの方は誤解を受けることは多いですが、少なくともクズではありません」



 彼のやり方を見ていたがそこらへんの貴族と同じに見えた。

 やはり主人の肩を持つのは筆頭側仕えという地位があるからだろう。

 すぐにでも出て行きたかったが、サリチルには様々な礼儀作法を教えてもらったので、これまでお世話になった分は返そうと思った。

 まだ他にも客人が来ると聞いており、こちらへやってくる気配に気が付いた。

 扉を開けると、そこには中年の夫婦が不安な表情でやってきていた。

 身なりは整っているが自信のない表情であった。



 ──この人たちもお客様?



 とりあえず中へと案内しようとすると後ろから軽快な声が聞こえてきた。



「やあ、よくぞ来てくれた。その方々を先ほどやってこられたお嬢さん方の部屋まで案内したまえ」



 レーシュは取り繕った笑顔で私に命令した。

 どうにも女の子たちを買いに来たとも思えず、彼女たちとの関係性が分からなかった。

 とりあえず言われた通り、女性たちがいる客間へと案内する。

 ドアを開けると、女性たちがビクッと肩を震わせた。

 とうとうお呼ばれだと思ったのだろう。

 しかしこちらへ視線を向けると驚いて固まっていた。



「おとぅ……さん?」



 思わず女性と夫婦たちを何度も目を向けた。

 頭が全く付いていけず、成り行きを見守る。


「ああ……もう、大丈夫だ──!」


 父親が手を広げると女性は走り出す。

 お互いに抱き合って慰め合った。


「ごめんね──! もう辛いことなんてしないでいいんだよ」

「お母ぁさぁん!」



 一組の再会を喜びに続いて、他の女性もこちらへ駆け寄ってきた。

 お互いの家族で抱き合い、泣き、そして笑っていた。

 私は一体何を見ているのだ。



 私は走った。



 どういうことなのかを本人に聞くしかない。

 執務室のドアを勢いよく開けると、仕事に戻っていたレーシュが手を止めて面倒臭そうに見ていた。



「ノックくらい──」

「どういうことですか!」


 レーシュの言葉を遮って机まで詰め寄った。

 礼儀だとか作法など今は頭から飛んでいる。

 この知性のかけらもない頭でも分かるように説明して欲しかった。

 レーシュは後ろの背もたれに寄りかかって偉そうにしていた。


「言ったはずだ。これは慈善活動ではなく、営利活動だと」

「それは聞きました! ならあれはどういう意味で会わせたのですか!」


 私は思わず大声を上げた。

 これからもっと悲惨なことが起きるのか、それとも彼が善意から助けたのか。

 私ではレーシュの考えなんて分からない。

 もしこれ以上あの家族に不幸があるのなら私は力を抑える気はない。


「レーシュ様……」


 後ろから先ほどの家族の声が聞こえた。

 みんなの家族が迎えに来たようだったで、誰も一人ではなかった。

 泣き腫らした目元は思う存分再会を喜んだ証拠だろう。



「礼はいらん。君たちの報告があったからあの男たちの脱税や違法行為が見つかったのだ。協力に感謝する」

「噂通りの人でした。私たちは貴方様への恩を忘れません」


 家族たちは全員頭を下げて感謝を伝える。

 レーシュは仏頂面のまま鈴を鳴らしてサリチルを呼んだ。


「サリチル、皆様を送って差し上げろ」

「かしこまりました」


 サリチルに連れられてみんな帰っていく。

 残ったのはまた私たちだけになった。

 レーシュはまだ何か言いたいことはあるのかと首で発言を許した。



「大変申し訳ございませんでした!」



 姿勢を正して、頭を下げた。

 私は勘違いをしていた。

 私欲のためにやっていると思っていたが、彼は人として正しいことをしていた。

 それなのに考えもせず非難した自分を恥じた。


「何か勘違いしているようだから言っておく」

「はい?」


 レーシュは立ち上がって私の前までやってきた。


「俺の評判を上げておけばあのように騙された哀れな子羊たちが私にお金の匂いを運んでくれる。そうすると簡単に脱税も見つかり、俺の懐も潤う。何度でも言おう。俺は慈善活動なんてしない、やるのは営利活動だけだ」



 まるで子供のように理由をつける。

 利用するだけ利用するなら、どうしてそれだけ満足そうな顔をするのだ。

 レーシュの手が私へ指を差す。


「いいか、俺はお前を雇っているのも慈善活動じゃない! 田舎娘が作った田舎臭い紅茶でも飲まんよりマシだから早くもってこい」

「は、はい!」


 返事をしてすぐに走り出した。

 もっと最低なやつだと思っていたが、彼は私が思うより人間味があるのかもしれない。

 サリチルへの退職願いもお詫びをしてやめてもらった。

 もうしばらくここで働くのもいいかもしれない。

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