「母さん、すまん、鬼(美少女)、拾ってきちゃった」~出会って五秒で噛みつかれ、その場のノリと勢いで鬼と成る!~
阿礼 泣素
第1鬼 ――鬼滅の空から落ちて来た少女でしょ。
「どうして……あたしに、それを向けているの……」
「こうするしか……ないからだ……」
俺は目の前の少女に銃口を向ける。少女は悲しそうな目でただこちらを見つめるばかりだ。彼女の頬からは涙が伝っているように見えた。
だけど、それは幻想だ。彼女が泣くはずがない。彼女は俺を殺そうとしているんだ。
――バン!
少年は今までの過去を清算するように、静かに銃口を下ろした。目の前には少女だったものが、愛していた存在が、ただそこにあった。
「これで……よかったんだよな……」
ふっと体から力が抜けてゆく。緊張して強張っていた筋肉が忽ち本来の動きを取り戻す。少年は後悔と安堵が混ぜこぜになった心でその場にへたり込んだ。途端に少年は今まで彼女と過ごした時間を、無意識に、乱雑に、想起する。思い出したくもないのに、もう忘れたいはずなのに、抑えようとしても溢れて満ちて、少年の心に隙間なく充溢する。
俺の目から涙が伝っている。俺が悲しむ資格なんてないのに。彼女を殺さなきゃと思っていたはずなのに。どうして。
いや、分かっている。これは……
※
一瞬、風が強く吹いた気がした。同時に、その風の欠片が鼻腔の奥をズキリと刺すような感覚もあった。
「いったーい」
――それはさも当然のように、俺の頭上に飛来した。
怪雨と言う、空からその場にあるはずのないものが降ってくる現象がある。魚や土あるいは虫なんかがそうだ。そんなものが空から落ちてくれば、一体何が起こっているのだと驚くに違いない。
しかし、俺の前にそれらに該当しないものが落ちてきた。俺はどう反応すれば良いのか、一瞬迷った。
なにせ、「少女」なんて言うものが、不意に落ちてきたのだから。それもただの少女ではない。「美少女」だ。
不可解すぎる。
――空から美少女が落ちてくるだなんて……
「いたいのは、こっちのセリフだ。早くそこをどいてくれないか」
俺はいたって冷静に、慎重に、宣った。
「あなたは、なんと、一万人目のお客様です」
「そんな偶然の幸運を装い、俺の射幸心を煽ったところで、俺が憤慨していることは変わりない」
「そんなぁ~」
「あ」
俺の目の前には股をおおっぴらに開いた少女がいる。
つまりはそう言うことだ。
一枚の布切れが目に入ってくる。これは不可抗力だ。俺は、見ようとしていたわけではない。ただ、そこに、それがあっただけだ。
目の前の少女は俺がそれを視認したことを察知すると、露骨に意気阻喪した表情となり、声色を落として言った。
「くくく、今見たことは忘れるんだな。さもなくば……」
「すまんな、目で録画してしまった。略して目録だ」
意味不明な弁明をした俺だったが、その弁明に意味などないことは分かっていた。
「分かっているさ、俺は然るべき処罰を受ける、そうだろ?」
気障に、訳の分からないセリフを重ねてこの場を逃れようとする俺。一体何やってんだ。
「そう、ここで、タイトルロゴがどーんって打たれて、物語は始まるのです!」
そらこい!
「空から落ちてきた少女に、俺は恋をした」
「なんか一昔前のタイトルっぽい。今風でいくならさ……」
――鬼滅の空から落ちて来た少女でしょ。
いや、刃の代わりの部分長すぎない!? つか、鬼殺隊に入隊してんのか。鬼殺せちゃうの!?
「にしし」
少女は屈託なく笑った。
運命の出会いだと、そう思った。
偶然の邂逅、それはどこか魅力的で、刺激的で、俺は胸の高鳴りを抑えることができなかった。
「んで、ここはどこです?」
少女はあけすけに言った。まるで地球以外のどこかから来たみたいに。
「ここは太陽系第三惑星、地球だ」
「あたし、M78星雲から来たから分からな~い」
某ウルト〇マンと同郷じゃねーか、そんなわけあるか。
「ま、どこでも、いいや。あなた、あたしのエサになってね」
彼女はそう言って、俺の首筋に無遠慮に噛みつこうとしてきた。
「ちょ、待って待って、吸血鬼系? ゾンビ系? もしくは鬼滅の鬼サイドだったの!?」
これ俺、助からないやつじゃん。都市伝説の最初の犠牲者じゃん。空から謎の少女が落ちて来て、それをみた人間は血を一滴残らず吸われるってやつじゃん。
「嫌だ、嫌だ、死にたくない!」
柄にもなく喚いて命乞いをする俺。まだまだやりたいことあるんだってば!
「待ってって言われて待つやつがいるかってーの」
――カプリ。
ずいぶん可愛らしく噛みつかれたものだ。俺は体内の血液がすーっと吸引されるのが分かった。俺、死んじゃうんだ。父さん、母さん、親孝行できなくてごめん……
――って、死んでないじゃん!
セルフツッコミを入れる俺、どうしてだろう、俺は無事に生きている。噛まれたところがちょこっと痛むぐらいであとは特に変化がない。
「これから、キミはあたしの栄養源だから! よろしく!」
――栄養源だから源ちゃんね、ゲンちゃんって昔の名前っぽいね!
「にしし」
また少女はそう言って笑っている。どうも俺には少女が悪いやつには思えなかった。
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