第1幕 死ねない狐―2
ここは
平安時代から続く由緒正しき場所で、かの安倍晴明その人が
元々は陰陽師たちが所属する機関そのものの名前だったそうだが、後に妖を
その昔はこういった陰陽寮が全国津々浦々に設立されていたそうだが、今ではこの学園しか残っていない。
呪いに槍では対抗できない。
呪いに対抗できるもの即ち呪い――――こうして、当初は占術使いであったとされる陰陽師たちは研究を重ね、妖に対抗する為の技術『
あやふやな
そして現代日本。科学の発展と宗教の希薄化、何より陰陽師たちの功績によって妖の力は弱まり、陰陽師たちの存在意義も薄れていった。
今となっては人を驚かしたり、小さな事故を引き起こす程度の力しかない妖。残った数少ない陰陽師達は陰に隠れ、それらをひっそりと祓い続けているのだ。
「……オイこら
「いてっ」
「
耳にたこができるほど聞かされている陰陽の歴史。虎鉄はついうたた寝をしてしまっていた。
「……すいません」
「実技が殆ど出来ないなら、知識だけでもつけておかなきゃダメだろうがよ」
若い男性教師に叱られ、周りから小さな笑い声が漏れる。視界の端では、少し離れた席に座る凜がジト目で虎鉄を睨みつけていた。
ここ陰陽塾は妖を
実践的な祓魔式の記し方や、呪力を用いた印の結び方など、学ぶ内容は多岐にわたるが、それらを扱う実技授業においての虎鉄の成績は、とある理由によりぶっちぎりの最下位だった。
虎鉄には
通常、人が妖の姿を直接見ることは出来ない。見鬼の才と呼ばれる、特殊な才能を持つ者だけがその姿を捉えることが出来る。
陰陽師たちはその身に宿す見鬼の才により妖の存在を捉え、呪力を用いて祓魔式を構築し、それらを祓うのだ。
見鬼の才は基本的に先天性の物で、遺伝による発現がほとんどである。
故に名門の生まれである虎鉄には見鬼の才があるはずなのだが、16歳となった今でも発現していない。
呪力を所持していても見鬼の才がなければ呪力の流れを捉えられず、祓魔式も上手く扱えない。出来るのはせいぜい触れたものに呪力を直接流し込むこと程度。
そもそも呪力を流し込めているのかさえも、専用の道具を使わないと虎鉄本人には分からないのである。
これらの理由により、虎鉄は名門の生まれにして、学園の落ちこぼれとしての扱いを受けているのだった。
「名門が聞いて呆れるぜー?」
「ほんとだわ」
「なんであんなやつと……」
クラスメイト達の野次が次々と飛んでくるが、虎鉄に返せる言葉はない。
嫌な注目の浴び方に、恥ずかしさから冷や汗が出る。
「私語厳禁だ。授業を続けるぞ」
ざわついていた教室は若い男性教師の冷たい喝により一気に静まり、授業が再開される。
虎鉄は学園に入った時からこうであった。入学時にも祓魔式の実力テストがあったが、虎鉄は1メートル先で灯る、
現代における祓魔式は遠距離からの祓魔に重きを置いており、それはそれで古臭い戦い方などと馬鹿にされたものだ。
それとは別に、落ちこぼれの扱いを受ける理由はもう一つあるのだが――――
「えーまあ、このようにして呪力とは生命の源と密接な関係があり――――」
「……」
視界の端に、姿勢正しく授業を受ける凜の後ろ姿が映る。
彼女は一言で表せば優等生だった。昔から見鬼の才にも恵まれ、人一倍祓魔式を理解し、呪力も豊富であった。
特に彼女は
もちろんこの陰陽寮でも頭角を現し、名門の名に恥じない優等生ぶりを発揮しているのだ。
それ故に、同じ名門の出として虎鉄は日々肩身の狭い思いを強いられているのであった。
――――まあ、悪いのは全部俺なんだけどな……
虎鉄は心の中で自分の不甲斐なさを責めた。
こう見えて、虎鉄は知識だけは豊富だ。子供のころは住んでいた実家にあった古い書物も読み漁り、祓魔式の使い方、妖の名称、それらへの対処方法などの実践的なものから陰陽歴まで……
しかし見鬼の才がなければそもそも妖を祓うことなどできるはずがない。
仕方なく、剣術などの役に立つのかさえ分からないものも、独学ではあるが身に着ける様にはしているのだ。
こうしてすでに身に着けている知識を聞き流しながら、虎鉄は今日の座学もこなして行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます