火花の夜:8

 翌朝。火花の夜が終わり、ソーラとミウ、ヴァリウスたち剣子隊は寝ずの夜を過ごし朝を迎えた。「まだ潜伏しているモンスターがいるかもしれない」という心配は、ひとまず杞憂に終わったようである。

 「残った奴はあれにビビって逃げたんだろうさ」という部下の言葉に、ヴァリウスはジョークだと笑い飛ばせなかった。自分たちが逆の立場であれば、迷わず逃げる。それは剣子隊の人たちの共通認識である。


 安全のため家に篭っていた村人たちも、剣子隊のキャンプ地に一同集まっていた。彼らが集まる視線の先には、風穴が空いた、または両断されたモンスターの死体の山がある。

 ミウが魔術による『魔術念動(サイコキネシス)』を用いて、わざわざ山に散らばっていたモンスターの死体を回収し、キャンプ地まで運んでいたのだ。モンスターが実際にリーズデビルであったことと、倒した数の確認のためである。


 最終報告のために現地まで足を運ばないといけない、と思っていたヴァリウスにとっては大変ありがたかった。



「これでおしまい。千切れてるのもあるし、数の詳細な確認は無理だと思う」

「本当にありがとう。ありがたいけど、飛行しながら同時に『魔術念動』を使って物を運ぶのも超高度技術のはずなんだけどね……」



 この際、ミウのしでかしてくれることに驚く気力も削がれてしまったのだろう。それはソーラに対しても同じである。



「君、『炎』の魔法使いの間違いでは……? いや、それと同格のすさまじい――」

「そんな! 『炎』の魔法使いなんて畏れ多いです! これも『光』を集めてるだけですし」



 ソーラは剣子隊の人間が確認を終えたモンスターの死体を燃やしていた。火を放っている様子もなかった。彼女は光を一点に集め、収れん火災のようにモンスターを発火させていたのだ。原理を知らなければ、ヴァリウスの部下が「炎」と勘違いするのも無理はないが。

 ソーラとミウ、この二人がいると、何を言わずとも様々な面倒事がまるで面倒事ではないように片付いてしまう。

 帝都で一番有名な冒険者の一人である『炎』の魔法使いと同格扱いを「畏れ多い」とソーラは言っていたが、ヴァリウスたちには二人は恐れるべき存在として認識されている。二人が最初に合流した時の客人扱いはどこへやら。


 村人たちに至っては、二人の少女をまるで貴人を拝むかのように敬っている様子だった。


あれほどの派手な音と光、当然家の中から村人たちの目にも映っていた。あの火花の夜を演出したのがたった二人の少女によるものだという噂はたちまち広まった。それもたった一日でモンスターの正体を突き止め、それを全部退治してしまったのだから、剣子隊の面々を差し置いて二人を崇めるのも無理はない。

 見るも無惨になったモンスターの死体の山が目の前で積み上げられていっているのだから、それを冗談だと逆張りする余地すらない。


 原型が残っている死体も少ないので、厳密に数の確認はできなかったが、確かにリーズデビルが三十匹程度いたらしい。それらは漏れ無く倒されてしまった。

 本来なら剣子隊程度の規模の部隊では太刀打ちできるはずもなく、村の放棄さえ考慮されていたはずのモンスターの群れ、のはずだった。


 それらをあっけなく倒してしまったソーラとミウは、この場において間違いなく英雄だった。

 英雄の二人に、村人の感謝の念と、剣子隊たちの敬意の視線が集まる。剣子隊が儀礼用の陣形を成し、ヴァリウスが代表として二人の前に帝都式の敬礼をする。本来ならば貴人に対して行うそれを一介の冒険者に行うのは例外中の例外であった。



「剣子隊、副隊長ヴァリウス。この場の代表として、二人に深く礼を。感謝する。二人が居なければ間違いなくこの件はここまで迅速に解決しなかった」



 ソーラはあまりに仰々しく感謝をされたもので、驚いて「そんな大したことしてないです!」と謙遜しようとしたが、ミウがそれを制止する。「冒険者はお礼を言われるのも仕事の内」というミウの一言に、ソーラは恐る恐るながらもそれを受け止めたようだ。


 仰々しい、というのは確かだが。村人たちの手前、ここまで仰々しく二人を讃えなければ、村人の剣子隊への視線というのも若干厳しいものになるだろうという判断の上である。村人たちにとっては剣子隊の面々は「冒険者頼りで仕事が遅かった」というシビアな評価をくだされつつあるのが悲しい現実だ。



「二人が公職冒険者で居てくれるのであれば、助かる人々が多いのは間違いなく事実だろうね。君たちの働き、間違いなく帝都に伝えると約束するよ。君たちには是非、もっと活躍して欲しい」



 ヴァリウスのその発言に、ソーラとミウはやっと嬉しそうな表情で頷く。この仕事で、間違いなく冒険者としての二人の有用性をアピールできたことを確信できたのだから。


 間違いなく、初仕事は大成功に終わった。

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