Our Home Room

アサミカナエ

第1章_ルームシェアはじめました

1-1 誠くんと奈朋ちゃん

「いや、ホント。ここマジでオススメっス!」

「うーん、大家さんが下に住んでるのがなぁ。窓の外も隣の家の壁だし……。家賃いくらですか?」

「6万5千円っスかね~」

「これで6万オーバーかぁ。5万円台まででないですか?」


 2月上旬。晴天。

 僕は今年大学を卒業して社会人になる。

 初めてのひとり暮らしといえば胸も躍るはずだ……が。ふらりと入った不動産屋がどうやらハズレだったようだ。


「でも広いしコンセントもたくさんついてるスぃ。いいと思うんスけどねぇ。つかもうココらで手を打ちましょ。今なら家賃3千円値引きしまスんで!」


 サイズが全然合っていないスーツの脇を湿らせながら大声を上げるこの男性。バイトだろうか? さっきから「ス」をつければ敬語だと思っているくさいのが、また絶妙にイラつかせてくる。


「あ、ちょいごめんなス。はいまいど古式」


 営業さんは話の途中にもかかわらず、かかってきた電話を取るとそのままキッチンへ行った。

 残された僕は一応、紹介された部屋をぐるりと見渡してみる。

 日があまり入ってこなくて、カビのにおいが鼻につく。靴下を履いていてもフローリングに立っているだけで、つま先から体が凍っていくような気がした。


 日光を求めて外に出た。

 尻ポケットから電子タバコを取り出してくわえる。一人で暮らすともろもろの雑費がかさんでくるだろうし、やっぱり家賃も妥協できないな。

 手をなるたけコートのそでの中に引っ込め、背中を丸めてけむりを吐いた。

 ちくしょー寒いよー。冬将軍のせいかよー。将軍マジ倒すわー。てれってれってってってー僕参戦! なんつってー……うわ、寒うぅ……。


「長谷川さん、おまちどう♡」

「うわっ!?」


 いつの間にか、機嫌よく背後に立っていた営業さん。

 僕は慌ててタバコをポケットにしまい、じりじりと下がって距離を取る。

 あと一軒まわる予定の家見たら、別の不動産屋に行こ。


「長谷川さんってさぁ、ルームシェアとか興味ないっスかぁ?」


 突如、古式さんがキリッとした目で僕を睨んだ。

 いやなぜ睨む? その気迫はなに? なんで俄然やる気を出した?

 え、怖い。尾道に帰りたい。都会ヤバい、もう嫌なんだけど(涙)。


「家賃も抑えられるし、一人暮らしでも寂しくないっ! 長谷川さんにピッタリだと思うんスよねぇ〜」


 そう……なの?

 でも、知らない人同士で暮らすなんてストレス溜まりそうだけど。


「長谷川さん。いや、はせっち!!」

「はい! いや、その呼び方はおかしいだろ!?」

「なんと駅から徒歩5分! 2LDKで、シェアなら家賃4万!」

「……マジで? 広さは?」

「50ヘーベー以上っ! とりま百聞は一見にしかずっしょ。今から見に行くっス!」


 駅に近いし家賃は安い。……ありでは?

 そういえば最近、シェアハウスを舞台にしたバラエティもテレビでやってるし、流行ってるって聞いたことあるな。突然シェア物件の話が来るのも都会では当たり前なのか?


「とりあえず見てはみますけど……。その前に、このあとに行く予定だった部屋は?」

「そんな犬小屋どうでもいっスよ~お化け出るし。さ、行きまスよ~」

「いやあんた、しれっと幽霊出る物件紹介しようとすんなよ!」


 やっぱこの不動産屋、不安なんだけどっ!?

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