第10話 読書タイム……なのか? その2

「あれ?俺、泣いてる?」


 思い出し始めたら、どんどん沸き上がってきて止まらない。このところ、忙しすぎて思い出すこともなかったなぁ。あ、何か目から……はい、汗だなんて言いませんよ。止まらないよ、涙が。ばあちゃん、絶対に時間作って墓参りに行くからねー!

 久し振りに泣いた気がする。


 落ち着いた所で次のページへ。

 まぁるい窓。その向こうに地球が見える。うん、宇宙だね!開けちゃダメなやつ。これは開けずに見るだけにしておこう。


 次は、海の底が見える。と言っても、色とりどりの珊瑚が見える、明るい海中。開け……ないぞ!俺の右手、鍵を持たない!これも見るだけだ。我慢我慢。


 危険な窓が続いてきたので、次のページをめくるの、ドキドキする。

 そーっと次のページを覗いてみる。


「あ、あっちの図書館で見たページだ」


 船の窓だった。仕掛けを動かすと、窓からは荒れた海の向こうに港町が見えている。壁の方も、もちろん丸い窓に変わっている。近くに寄ると、窓に波が当たっているのが見えた。小さく波や風の音が聞こえてくる。

 と、窓のすぐ外に何かが光りながら浮いているのが見えた。あれは、ほら、アレだわ。瓶に手紙を入れて流すやつ。実物(なのか?)は初めて見る。

 手を伸ばせば届きそうな所まで近づいて来てるなぁと、つい思ってしまったんだ。窓を開けた途端に、ザバーン!と。


「うわっぷ!」


 ビショビショだよ。頭からがっつりと海水をかぶっていた。海まで車で20分はかかるこの場所で。床も濡れている。その上に、海草の欠片とか木のスプーン、ロープの切れ端などのゴミに混じって、小瓶が落ちていた。


「良かった、割れてない」


 拾い上げて見てみると、瓶の口はしっかりと蓋が閉められた上に、蝋のようなものでコーティングされている。中にはクルクルと丸められた紙が入れられていた。そして、何だか分からないが、中がほんのりと光っていた。


「また落とし物拾っちゃった」


 帰りにエルブさんか翡翠さんに渡すことにして、水気を拭き取り、シャツの胸ポケットに入れた。まあ、シャツもしっかり濡れちゃってるんだけどね。

 小さな声で『ドライ』って言ってみた。異世界ものに詳しい友人が、ラノベってのを無理やり貸してきたことがある。そこに書いてあったんだ。向こうには普通に存在する世界があるらしく、なかなか便利な魔法だな、と思っていたものだ。


「はい、乾かない」


 そんなに都合良くはいかないや。

 あの二人には内緒にしておこう。

 さあ、絵本も残り少なくなってきたぞ。


「良かった、次は地上みたいだ」


 向かい合わせにあるシートの向こうの窓からは、長閑な田園風景が広がっている。

 でも、開けるもんではなかったなぁ。

 特急列車の窓なんて……。

 いや、あまりにも長閑だったから、各駅停車の列車かと思ったんだよ。

 特急列車の窓を開けさせるなよ、この絵本!

 つい開けてしまったら、すんごい風が吹き込んできた。今の俺の髪は、寝起きより酷い、バサバサヘアだ。



 ビルの窓もあった。あれも開けるものではなかった。高層階だったものだから、景色は良いものの、下を見たときに尻がスーンとなってしまった。


「まともな窓はないのか!?」


 ビショビショの服にバサバサヘア、その上変な汗、これが読書か?読書って、こんなに疲れるものだったっけ?

 でも、ページも残り少なくなってきた。頑張れ、俺!……いや、何で頑張るんだ?まあ、こんな読書もたまには楽しいよな。

 さてさて、絵本を見ると後は見開きが二つになっていた。おや、ちょっと寂しい。


 ゆっくり開くと、おしゃれな窓の向こうは花屋のようだった。壁の窓もそれに変わっている。これなら安心して開けられるぞ!

 しっかりと鍵を持ってゆっくり回して開けた。


「良い香りだぁ~」


 花の香りがフウワリと顔をくすぐる。

 窓は、両開きで、フレームは深緑の繊細なアイアン製だ。開けた先はテーブルになっていて、鉢植えやアレンジメント、可愛らしいブーケがいくつも置いてあった。

 その中に、ピンクのスイートピーをメインに束ねられた小さなブーケがあった。もちろん、値段は読めない。絵本の中とは言え、ただで取ってくる訳にはいかないので、たまに寄る花屋で見かけるブーケのお値段を思い出す。


「このくらいで大丈夫かな?」


 しっとり財布から、しっとりした千円札を出し、ブーケと取り替えるようにテーブルに置いて窓を閉めた。


 さあ、とうとう次は最後のページだ!

 ソファに座り、何故か息を整える俺。

 ページをめくると、そこだけ、左上に一行の文章が書かれていた。

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