ある図書館へ招待された俺の、ちょっとした散歩の話

瑠璃珊瑚

第1話 本を借りに来ました

 今日は金曜日。残業もなく、いつもより少し……いや、随分と早く会社を出ることができたので、久し振りに図書館へ来ていた。大学在学中は、学校から近かったので、よく来ていた場所だ。俺の財政上の問題により、本はできる限り買わないと決めていた。だって高いもん。大学とアパートの中ほどで見つけた図書館に時間があれば来て、色々読んだり借りたりしていた。

 社会人になってからも、頻度は減ったものの、こうして時々来ては色々と読み漁っている。


 今読んでいるのは『雲』の本だ。写真がほとんどのページを占めている。横にもう1冊あるのは『氷』の本だ。こちらも写真が多い本。今日は文字が読みたくない気分なものだから、自然とそんな本を選んでいた。


 座っているのは、お気に入りの二階の席だ。フロア中央の、デスクがたくさん並べられた場所は落ち着かない。学生の頃に見つけた、ちょっと隠れ家的なスペースが気に入り、今も空いているとそこを使っている。

二階への階段を上り、吹き抜けのスペースに沿うように進んだ先。奥の窓際に向かう本棚に挟まれた通路は、一見窓で行き止まりに見えるが、そこまで行くと、左右に小さなスペースが作られているのに気付く。中には小さなテーブルと一脚の椅子が置かれていて、俺にとってはとても落ち着く場所なんだ。


 俺のお気に入りの場所は左側のスペースだ。吹き抜けに面した壁に小さな窓があけられていて、一階のカウンター辺りの様子が見える。別の壁には外が見える窓もあり、図書館の裏側が見える。まあ、そこに素敵な庭があるわけでも、遠くの町並みが見渡せるわけでもない、ただ裏の道とその向かいのビルが見えるだけ、なのだけれど。


 そんな場所で、持ち込んだ本を見て、借りて帰る本を選んでいた。先ほどの『雲』と『氷』の本の他にも持ってきてるぞ。鉱物の本とか、虹の本。今日は自然科学の棚を見てたからだ。それから知らない作者の分厚い小説、これはワゴンにあった本をテキトーに取ったらこれだった。それから、何故だか絵本。持って来た覚えがありませんが?


「こんな本、持って来てたか?」


 タイトルは『いろんな まど』

 開けてみると、うん、窓だ。めくってもめくっても窓。タイトル通り、いろんな窓。

 よく見ると 、ページごとに矢印の付いたつまみがあり、動かすと窓が開き向こう側の景色が見えるようになっている。

 庭だったり、ビルが建ち並んでいたり。


「この丸窓は……」


 つまみを動かして見えてきたのは海原だった。船の窓のようだ。大きな白波が立っているので、嵐なのか?遠くに港町が描かれているので、そちらに向かっていると思われる。


「何か、気になる……ような気がするぞ」


 借りて帰ることに決定。

 何で絵本って?大人だって読みたくなる時があるんだい!


「誰かが置き忘れて行ったのかな?」


 そこは気になるところである。


「絵本の書架は一階だよな」


 正面の小さな窓から見える、カウンターの向こうの児童書のエリアにあるはずだ。二階の奥の、こんな離れた所まで持って来た人がいるのか?


「う~ん」「う~ん」「ぶ~ん……」


 絵本とカウンターと、何故か裏の道をデリバリーのバイクが通るのを見ながら、ひとしきり唸っていたが、やっぱり借りることにした。


 結局、他に持ってきていた数冊も借りることにして、俺の隠れ家……じゃなかった、閲覧席を出ることにした。

 外はすっかり日が暮れて、暗い中に飲食店の明かりが目立つようになってきていた。


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