もう会えないあなたへ

@Shukan0816

第1話 文通

 私は弱い人間だ。少し辛いことがあるとすぐに彼に助けを求めてしまうから。

 私はずるい人間だ。彼が、私を助けてくれると知っていて助けを求めるから。

 ある日、彼が死んだ。居眠り運転のトラックから中学生を庇って。ほぼ即死だったらしい。その連絡が来た時私は彼の死を悲しむよりも一瞬早く、中学生を妬ましく思ってしまった。最低だ。最悪だ。その時私の中で何かが壊れる音がした。

 自己嫌悪と虚無感が私から生きる活力を奪うのにそう時間はかからなかった。数ヶ月後、そろそろ彼の後を追おうかとカーテンも締め切られ、陰鬱とした雰囲気が漂う自室で考えていると、電話が鳴った。唯香からだった。

「あ、もしもし、さくら?あの、多分、っていうかほぼほぼ私の見間違いなんだけど、さくらには伝えておこうと思って。」

「どうしたの?」

「賢吾君にすごく似た人をね、見たの。駅前で。」

「......え?」

 普通に考えればただの他人の空似だ、と言って信じないだろう。しかし私は彼に会えるかもしれないと思うほどには脳が壊れていた。いてもたってもいられず家を飛び出した。

 「さくら?もしもし?おーい。......だめだ行っちゃった。」

 家を出てから私は駅の方面に歩き始めた。彼はそこにいる気がした。なんの根拠もない、ただの勘だったがこの勘は信じるべきだ、と体全体が言っていた。その日は一日中彼を探し回った。駅の構内、

公園、近くのショッピングモール、デパート......

 日も暮れてきた午後5時、私はやっと冷静になった。そもそも死んだ人間が生き返るはずが無いのだ。多分って唯香が見たのはとてもよく似た別の人だったのだろう。そう思って家に帰った。鍵が開いていて一瞬警察を呼ぼうと思ったがそもそも鍵も閉めずに出てきたのを思い出してやめておいた。部屋に入ると机の上に何かが置いてあった。

「手紙......?」

 『穂村賢吾』

 「.....!」

 紛れもなく彼の字だった。丸っぽくて可愛いその字を、本人は気にしているみたいだったが私は好きだった。また見れるなんて思ってなかった。彼はやっぱり生きていたんだ!そう思うとなんでもできそうな気がした。幸福を噛みしめながら手紙を読む。

『さくら、元気にしてたか?会えなくてごめん。

手紙だけでもって思って書いてみたんだけど少し気恥ずかしいな、こういうの。それで、実はさくらに頼みたいことがある。俺と文通をしてくれないか。書いたら近所の公園のベンチにでも置いておいてくれ。なんで直接会わないんだって思うかもしれない。本当にごめん。でも今はだめなんだ。分かってくれ。』

 正直いくら彼からの手紙といえど、あまり納得がいかなかった。なぜ会えないんだろうとか、なぜこんなまわりくどいことをするのだろうとか、上げ出したらキリがない。ただそれでも彼と私をつなぎ合わせることができる。それだけでも私は嬉しかった。

 さっそくその日の夜、彼に向けて手紙を書いた。

『なんで手紙なのとか色々聞きたいことあるけどまず生きててよかった!会えないのには何か理由があるんだよね!その日が来るの待ってるね!』

 

 次の日、手紙を置いてこっそり影に隠れて彼を待ったがやはり姿は見えなかった。4時間ほど経っても来ず家に帰ると手紙が届いていた。

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