第12話 生命之付与
あれから3日。
妖弧とも冒険者とも遭遇していない。
一体あの後どうなったのだろう。
此方も命懸けだったのでなすりつけた事に関しては悪いとは思っているがまたあの場面になれば躊躇いもせずに何度でもするつもりだ。
弱肉強食の世界でモラルだなんだなんて気にしてられる程私は優しくない。
寧ろどちらも私の敵なのだからあの行動は賢く正しい。
自分の中でそう折り合いをつけながら、今日も狩った魔獣の魔核を食していた。
しかし、新天地に来たは良いものの魔獣の魔核を食べても進化出来ない。
自分より格上の魔獣の魔核を食べても変化は起きなかったので質が重要な訳ではないようで。
進化については若干行き詰まっていると言っていいだろう。
しかし、劣種から中位種に上がるまでは魔核を食べたことによって上がったので検討違いの事をしている訳ではない筈なので引き続き魔獣を狩って魔核を地道に食べていくしかないだろう。
そして、いつ進化するのか分からない今、それだけに拘っている訳にはいかない。
他の方法でも強くならなければあの狐しかり、まだ見ぬ強者に食べられてしまう。
そこでやはり最初に戻る。
『能力』それの習得と習熟をすべきだろう。
特に私固有と思われる『
特に『
だから、まず一定周囲に[生命]の祝福を付与すると言うのがどういうことなのか理解すべきなのだ。
私は急ごしらえで作り込んだ巣穴の中で植物を『生命』を付与する事に決めた。
そもそも植物は『生命』だ。それに生命を付与するとどうなるのか。
とりあえずまず、付与する前を『鑑定』。
――――――解析
[リアルマ(苗木)]
[分類]:植物(苗木)
[状態]:良
[説明]:主にカーラント地方に生息するアルマ科の植物。樹形は四方に拡がるように成長していき、他のリアルマの木と直接花粉の受け渡しをし受粉を行う。苗から成木までは半年もかからず成長するので植林に活用される。
成木の材質は硬く伸縮性に優れる為防具や武具に使われる事が多い。
………あれ?
こんな表記だったっけ。
……うんまあいいか。
考えてみたら『鑑定』が進化してから魔獣や人以外を解析する事なんてなかったから気付かなかった。
しかし、情報量が多い。
カーラント地方ってのはここの事かな?
いや、ここに昔この木が植林されただけの可能性もあるし決めつけるのは早計か。
とりあえず能力の習熟として『鑑定』も色々と試して行かなければならないがまずは当初の目的通り『生命』を付与してみよう。
『
するとリアルマの苗は元気にうねうねと動き始める。
(止まれ)
私がそう念じるとぴたりとリアルマの苗は動きを止める。
やはり私の言うことを聞くようになった。
そして、これを解析。
______
[____]
[種族]:リアルマ(劣種)
[加護]
『生命之祝福』_全能力値に成長補整(小)・全能力強化(小)・生命力に補整(小)・生命の還元・意志疎通
[
『硬質化』_表皮を硬質化
――――――――――
なるほど…
私はそれしか言葉に表せなかった。
少し冷静に状況を把握する。
『鑑定』の能力は人や魔獣、植物によって表記の仕方が代わる。
そして、生命を付与する前の鑑定ではあくまで植物として情報がのっていたが生命を付与した後は魔獣、所謂私と同じ表記のされ方になっている。
これはとんでもない事実だ。
今まで何故鑑定を行ってこなかったのか少し前までの自分を叱ってやりたい。
まあ、いちいちちまちまと鑑定するのが面倒だっただけだけど。
とりあえずここから推測出来るのは『生命』の付与は植物といった非知性体を知的生命体へと変化出来るということだ。
そして私が付与した『生命之祝福』の恩恵の一つである意志疎通によって私の命令を聞いていた事になる。
正直、強い能力というより恐ろしい能力だと思う。
まだ試していないが恐らく無機物にも効果はあると思われる。
つまり私は生命を作り出すことが出来る存在ということだ。
それが此方の世界ではどれだけ珍しいかは分からないが生命を一から造り出せるというのは神之御技にしか私はそれしか思えなかった。
試しに近くにあった手頃の石に『生命』を付与してみると石は震えながら形状を変化させ亀のような見た目になった。
______
[____]
[種族]:ヒマル(劣種)
[加護]
『生命之祝福』_全能力値に成長補整(小)・全能力強化(小)・生命力に補整(小)・生命の還元・意志疎通
[
――――――――――
やはり出来てしまった。少しだけ目眩を覚えた。
命はこんなに軽々しく造れるものではないから大事なので有り、こんな簡単に生命を造れてしまったら只でさえ兎になって希薄化した生命に対しての価値が更に下がってしまう。
それは結果として私を冗長させる。
そしていつか身を滅ぼす。
相場はだいたいそう決まっている。
しかし、有用であるのには変わりない。
意識があるといっても薄弱で此方の命令に聞くことしかないとみると便利な道具として使うのが一番賢いかもしれない。
もう一個試してみたいのは魔獣に対して生命の付与をした場合だ。
私は生み出した二つの命に此処で待つように告げてから魔獣を探しに外へ飛び出た。
適当に探し回っていると獲物を追っているゴブリンを見かけた。
それと同時に頭に悲鳴が響く。
(キャー)
ああ、ゴブリンが追っているのは魔兎か。
それなら、ちょうどいいや。
私は助けに入るべきゴブリンと魔兎の間に入り込む。
突然横入りしてきた私に二者が動きを止める。
「グギィ?」
不思議そうにしているゴブリンに『生命』の付与を行う。
む?
発動した時に感じる繋がる感覚が一切無かった。
私は鑑定を行う。
――――――解析
[――]
[種族]:ゴブリン
[状態]:空腹
[加護]
[
『棍棒術』lv3
[兎への敵性]大
やはり失敗している。
一体何故だろう。
無条件で付与出来るものかと思ってたけど魔獣には出来ないのかもしれない。
実力差も分からずに襲い掛かってくるゴブリンに一本の氷の矢を撃ち、ゴブリンはあっさりと絶命する。
そして振り返り、『同胞の絆』で縮こまる兎に話し掛ける。
(大丈夫?)
(ヒャー)
魔兎は未だ混乱しているようで身体を震わしながら此方を見ると先程まで怯えていたのが嘘のように元気にぴょんぴょんと跳ね近寄ってくる。
(ママー)
(ママではない)
間髪いれずに否定する。
私は確かに魔魔兎ではあるがママ兎になった覚えはまだない。
(ママー)
(はあ、違うって……)
魔兎ってもしかして馬鹿なのか……
いや確かに兎は別段賢いという訳ではないかもしれないが。
(んー)
すっかり安心したようで私の白毛に踞ってくる。
同族なので殺すつもりもないが恐らくこの調子では巣穴まで着いてきそうだ。
だるい……まあ、けどいいか。
巣穴に戻ろうと身体を反転し歩き始める。
すると案の定ぴょんぴょんと跳ねながら後ろを着いてくる。
(ママー)
だからママじゃないんだけど。
小さくため息を吐く。
あっそうだ。
能力を試していたことをすっかり忘れていた。
ゴブリンには弾かれた『生命』の付与を試しに行ってみる。
たぶん、魔獣には無理なんだろうけど。
しかし、その予想とは異なり目の前の魔兎と繋がる感覚があった。
もしかして。
鑑定を目の前の兎に発動する。
___解析。
[____]
[種族]:魔兎(劣種)
[加護]
『生命之祝福』_全能力値に成長補整(小)・全能力強化(小)・生命力に補整(小)・生命の還元・意志疎通
[
『跳躍』
『魔導之教え』_魔法系統の
――――――――――
出来ている……。
生命の祝福が加護欄に増えているのを確認した私は内心で驚く。
ゴブリンに出来なかった理由は一体何だったのだろうか?
同族だから出来たのかもしれない?
暫しの間、考えるも。
うん、もう少し試行してみないと判断出来ないや。
(ふわふわするー)
一方魔兎は私の付与によって身体が軽くでもなったのだろう。
自分の身体の変化を不思議そうにしている。
しかし、能天気なものだ。
こんなんでは魔兎が嘗められるのも仕方がない。
はあ、と小さくため息を吐く。
こんな所でうろうろしていたら間違いなく他の魔獣の餌になってしまう。
とっとと巣穴に連れて帰ろう。
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