第10話

「あらぁっ、聖女様はたかが演習ではご自慢の魔法をお見せになってはくださらないのですか?」

廊下でのことが尾を引いているようだ。

演習が開始されてからずっとエリザベートに突っかかられている。

演習なので邪魔にならないようリュウは隅に控えている。まぁ、彼らは私に危害が加えられない限りは手を出すことはないけど。

ましてや相手が王族なら。

「せっかくですからみなさんもお手本に見てみたいですわよねぇ。ねぇ、みなさん。そうでしょう」

エリザベートが周囲の生徒に同意を求める。

王族VS聖女

私なら絶対に関わり合いになりたくないな。

周囲の生徒もそう思っているのだろう。どっちつかずの反応だ。それもそうだろう。どっちについたって角が立つし、どっちも敵には回したくないはずだ。

「王族である私の意見に賛同できないのかしら」

微妙な反応を返す生徒がお気に召さなかったようでエリザベートは再度脅しを含ませて生徒に同意を求める。

「せっかくの授業です。私よりも先生のお手本の方がよろしいでしょう。基本に準じた正しいやり方でしょうから」

こっちに振るなと先生に睨まれてしまった。

「もしくはエリザベート王妹殿下がお手本を見せられてはどうでしょう。王族は私たち貴族のお手本となる存在なのですから」

正直、魔道具を使わないと他の属性の魔法が使えないので不用意に乱発したくはないのだ。何が原因でバレるか分からない。

「きゃあっ」

演習場に甲高い悲鳴があがり、視線を向けると赤いドラゴンが飛んできた。演習場は一気にパニックに陥った。

「みなさん、落ち着いてください。急ぎ避難を」

先生がパニックを起こし、いろんな場所に逃げまどう生徒を避難させるために動き出した。

「聖女様」

リュウが私を守ろうと走って来ていたがその後ろには青いドラゴンが飛んできていた。

「後ろっ!」

私が叫ぶと同時にリュウは振り向き、剣を抜く。背中を掠めるはずだった青いドラゴンの爪がリュウの持つ剣とぶつかって甲高い音を立てる。

「何で、ドラゴンが‥‥王妹殿下?」

立ちすくみ震えるエリザベート。ドラゴンの出現に怯えているにしては何か様子がおかしい。

「まさか、そんな、でも」

「何か心当たりでもあるんですか?」

「あ、あるわけないでしょっ」

私に怒鳴りつけてエリザベートはすぐにみんなと一緒に逃げようとした。けれど、どういうわけか赤いドラゴンはエリザベートを追って飛んでくる。

「きゃあっ、どうして私の方に向かってくるのよ」

「まずい」

エリザベートは赤いドラゴンに明らかに狙われている。それが分かっていても彼女は逃走経路を変えなかった。そして彼女が向かった先には教師の誘導で避難している生徒がいる。私はとっさにエリザベートの首根っこを掴み、後ろに引き倒した。

「な、何を成さるの」

尻もちをつき私を睨みつけるエリザベート。正直、相手にしている余裕はない。

私は今までドラゴンや魔物と対峙したことがない。そういうのは騎士の役目で、私は安全な場所で怪我人を治癒したり、魔物が倒された後で土地の浄化をしているだけだ。

だからこれが初めての戦闘になる。リュウは青いドラゴンがこちらに来ないようにしてくれているので私の元へ来ることは不可能。つまり、私がどうにかしないといけないのだ。

大丈夫、さっきどさくさに紛れて魔力増幅薬をいつもの倍飲んでおいたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る