第9話
「あら、ごきげんよう。聖女様」
移動教室なので廊下を歩いていると獅子色の髪に青い目をした女子生徒が嫌なものを見たという感情を隠しもせずに話しかけてきた。
エリザベート王妹殿下だ。
ガイオン陛下とは異母兄妹になる。ガイオン陛下と違い、正妃の子になるが実は先王とは血が繋がっていない、とまことしやかに囁かれている。
王族の証である琥珀の目を持っていないのもその要因だろう。
「ごきげんよう、エリザベート王妹殿下」
私が臣下の礼を取るとエリザベートは目を丸くする。王族相手には何も間違っていないと思うけど、もしかしてアニスとしては間違いだったのだろうか。
まさかアニスは王族にも不敬を働いていた?
そう思うと一気に血の気が引いた。どうしよ、今までの不敬を出して来たら。私じゃあ対応できない。
「最近、大人しくなったと聞いたけどどうやら本当のようね」
品定めするようにエリザベートが私を見る。
「漸く自分の立場が分かったのかしら。私は王族であなたは公爵家。幾ら聖女だからって図に乗らないことね」
何だかモヤモヤする。
そんなことは分かっている。でも、危険な場所に行って国の為に任務に携わる人に安全な場所でぬくぬくと守られているお姫様に威張られる筋合いはないと思う。
「無礼を承知で言わせていただきますが、貴族は陛下の臣下ではありますが王妹殿下の臣下ではありません」
「なっ!」
ぷるぷるとエリザベートは怒りで体を震わせている。
「聖女として危険な任務に赴く者に対して殿下の態度が王族として正しい態度だったのか今一度考えていただきたいです。それでは失礼します」
私は一礼してエリザベートの横を通り過ぎた。
エリザベートは持っていた扇子を握り締め、王族としての意地で私に怒鳴りつけたい衝動を抑えているようだ。
ちょっとまずかったかな。
後悔してるけど、間違ったことを言ったとは思っていない。
それよりも私は今、考えなければならないことが他にもある。それは今向かっている場所にある。
次の授業は魔法の演習だ。
アニスは全魔法を使うことができた。公爵夫妻がアニスを溺愛し、重宝していたのはそれもあったからだろう。でも私の適正は光魔法のみ。
けれど何も知らない教師や生徒からは他の魔法を使うことを求められるはずだ。だから私は魔道具を身に着けている。
魔道具は身に着けているだけで適性のない魔法でも使うことができる。それに一見しただけではそれが魔道具だとは思わない。ただの装飾品だ。
私が見た限りアニスはいつも綺麗な宝石を身に着けていたから私が身に着けていてもおかしくはないはずだ。
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