転生して魔法少女だウハウハしてたら所持魔法が物理特攻:極UPだったんだが

daren-conbrio

第1話 フォボスとダイモス

ある日、私はスマホを弄りながら歩いていた。こんな田舎では、事故が起こることなんて滅多にないからな。ちょうどThuitterで魔法少女を繊細に描き上げる絵師さんを狂ったように漁ってたところだった。そう、今考えれば、そもそもそれが、この悲劇……もとい、この異世界転生のきっかけ、大きな間違いの第一歩だったのよね。



「ギュワッッッシャアアアァァァン……プーッ、プーッ、プーッ、プーッ……」


大型のトラックが、道の真ん中にいた子猫を避けようと大きくハンドルを切った。運転手の彼は、こんな田舎に、スマホを見ながら悠々ゆうゆうと歩いている女の子がいるなんて予想だにしなかったのだ。幸い、この道はとても広い。なので余裕を持ってハンドルを切ったのだが……なんと不幸なことか、そこには予想外の女の子がいた。可愛らしい子猫を避けた先に、やはり可愛らしい子猫ちゃんがいたとはとんだ皮肉もあったものだが……さておき。無理にハンドルを回したため、かなりのスピードと遠心力を持って、トラックの荷台が彼女に激突した。



一瞬、何が起こったのか分からなかった。大きな音が聞こえたとともに、顔を上げた先には、もうトラックがすぐそこまで来てたんだからな。いや、本当に事故直前には世界がスローモーションになるのって事実だったぜ。言うなれば逆クロックアップってところか。

 私はこれで死ぬんだ…

 生きてる間に、満漢全席……とまでは言わなくても、回らない寿司屋で、たらふく食べたかったなぁ……。人間の死なんて、あっけないものなんだな。

 と、私が人間の生死感、人生観についてあれこれ思考を巡らせていた時、目に飛び込んできたんだよ

隻眼の、だけど、それ以外これといってルックスに取り柄のない、にやついた女の顔が。

そこから、私は天界に行くよう手配されたって訳。



「さて、この度は、ご転生の機会をお作りいただき、誠にありがとうございます。わたくし、貴方様の死後のケア……言うなれば、デス・アフターケアですね。を担当させていただきます、フォボス・サジタリ・ラペでございます。以後、お見知り置きを。」

彼女……私のアフターケア係(?)のフォボスさんは、私をここに案内した張本人。私がトラックにぶつかり、体の機能を維持するための血液を失い、脳味噌へ送らなければならない酸素の量を供給できている量が下回った時、彼女は私の体を、にやにやしながら思いっきり蹴り付けてきたんだ。その瞬間はとても驚いたけれど、彼女はどうやら、私の生命活動を停止した肉体から、まだ存在していた(恐らく放っておけば消滅しただろう)精神のみを抽出したらしい。そしてふわふわと浮かび、ここに連れてこられた。

ここは、入り口に立て掛けられた看板を、私が読み間違えてないと仮定するなら、

『異世界転生手続き所 天界(ユートピア)47号』

らしい。うん、意味がわからない。飲み込めないが、読み解く限り、グッバイ私の体。ウェルカム新しい生活って感じか?おいおい、冗談きついぜ。転生させるくらいならあの世界に戻って生き返りたかった……。

「はい。お聞きになりたい事はとてもとてもあると思います。ですが、まず私の話を聞いてください……。心の準備はよろしいですね?」

見たところ、ここは天界のようだが、フォボスさんは天使っぽく見えないな……。なんだろう、ブロンズの髪の、妙齢の女性が、純白のローブを着ている感じだ。神々しさとかは無いわ……。堂々としているから、やっと、ちょっとだけ様になってる感じ。

「ええ、良いですよ、フォボっさん。心の準備h」

「は?フォボっさんとかやめてください。まじでぶん殴りますよ?私の名を汚さないでください。は?転生したく無いんですか?私がここで貴女を置いていったら、貴女はどうにもこうにも身動き取れなくなりますよ?身元不明の不審者として刑務所にぶち込まれます!覚悟の準備をしておいてください!いいですねッ!」

おっとぉ、ちょっとおちょくっただけでガチギレさせてしまった。こうなるとなんだか楽しいな。生前は、整然とした世界で、年上の人をからかおうもんなら権力や出身の差を振りかざして、数倍にして返されたからな。しかし、この会話は正直続けていたいが、ここから出られなくなるのはかなり困る。……ん?いまワザ◯プジョ◯ノ混じってなかったか……?気のせいか?

閑話休題。今度は真面目に話してみる。

「すみません、そんな気持ちは毛頭なかったです。愛称を考えて、少しでも気軽に今後の会話をしていこうと思ったんですけどね……。そうでしたか、そういった歩み寄りは不要でしたか。すみませんでした……」

「あ、いっ、いえ、決してそんなつもりは……。いっ、今考えれば、歩み寄りも大切ですね、すみませんでした。これからは、ぜひ、楽しく対談しましょう。」

手のひら返しが凄いな、この人。まあいいや。別にそんなフォボっさんって呼びたいわけでも無いし、普通にフォボスさんって呼んで、普通に転生させてもらおう。そうしよう。早く説明が聞きたいぜっ!

「ええ!そうですね!……と言っても、私はひとまず、対談というよりフォボスさんの説明を一通り聞きたいですねぇ。それから不明点は質問します。見た感じ、聞いた感じ私転生の手続きをするんですよね?」

「まあ、そうですね。端的に言うなら、異世界に転生していただきます。では、詳しい説明をさせていただきますね。」


「まず、私は貴女のアフターケア係だって事はお話ししましたね?」


「そうです、貴女の生前からずっと観察させて頂いていました。」


「みんながみんな転生できるわけじゃあ無いんですよ?貴女からは、たまたま高濃度ウィッ値を観測しただけです。私はウィッ値がある程度高い女性の担当をする係なんですよ。」


「ウィッ値とは何か、ですか……?それはですね、貴女の転生先での仕事……使命と言い換えてもいいですが、魔法少女の適応力ですね。これは血筋は関係なく、昔から自然に関わっていたり、無邪気で、純粋な、純白な心を持っていたらウィッ値が蓄えられるのです。また、そう言った魔法への強い憧憬の心によって、ウィッ値ははぐくまれるのです。ちなみに、いくら少女時代にウィッ値が高くとも、年をとっていくにつれどんどん減衰していきます。魔法少女と言うくらいですのでね。どうしても魔法熟女としては、体面も保てないし、敵と対面しても、適当な処置なんて出来ませんよ。大人とは、すべからく子供の心を失うべきなのです。」


「ええと、話を戻しますね?」


「そこで、貴女を転生にスカウトする機会……もとい、死ぬ機会をずっと伺ってたんです。」


「貴女が死んだ時、それはすなわち、私の仕事の終わりを示しているわけですからね。」


「何を隠そう、私達雇われ天使は、元々ウィッ値ではなくエンジェル要素の強めな人間なのです。貴女、私を見た時、不恰好だなと思ったでしょう?私は30歳後半に命を落としましたので、ウィッチではなくエンジェルとしての素質が着々と育っていたのです。」


「なぜ私の仕事が終わるかって?それは、貴女転生した先に私も移り住み、よくある魔法少女の補助的な?マスコット的な存在として、まったり暮らせるわけなんです。」


「まあ、そうこうしているうちに貴女が死んでしまい、なおかつウィッ値を豊富に持っていた状態だったため、こうやって魔法少女転生の手続きをしているわけです。というより、今は貴女、肉体を失っているため、魔法少女になる以外の道なんてないですよ?そこを踏まえておいてくださいね?」


「閑話休題。」


「細かいことはやってみればわかります。やらなきゃいけないんですから、早いか遅いかの違いですよ。安心してください。サポートはしっかり私が務めさせていただくので。」


「ちなみに、向こうのほうで生活するためのある程度の資金は最初に一括でお渡ししておきます。具体的には1000万円です。その後は活躍によって資金は変動いたします。レート変動の仕方は後日お教えします。」


「お、では、ここにサインと血印をお願いします。あっ、針渡しますね。……はい、どうぞ。」


言いたいことや気になることはまだまだあったが、それは彼女がサポートしてくれるだろう。そう考えながら指を刺し、不思議な触感の紙に押し付けた。ぐりぐり。

その瞬間、わたしの意識は遠のいていった……

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