第3話
「何から始めよう」
いつもはディアモンと通った学園の道のり。
今日からは一人だ。
ジュノン侯爵家の馬車ではなくアドラー伯爵家の馬車で私は学園に向かった。
「貴族の女がつける仕事ってあるのかしら」
まずはそこから調べないと。
そんなことを考えているとあっという間に学園に着いた。
私がディアモンと別々に来たせいか周囲の生徒から視線を向けられる。
まるで監視されているみたいで気が詰まりそうだけど暫くはこれが続くだろう。
彼ら、彼女たちは見ているだけだ。だから気にしない。彼らはただの棒だ。突っ立っているだけの棒だ。
少しでも気を紛らわせるために私はそう思うようにした。
「あのぉ。すぃませぇん」
後ろから間延びしたような声が聞こえた。
「あのぉ。聞こえてますぅ」
何だろう。周囲がざわめいている。
「ちょっとぉ。もしかしてぇ、無視ですかぁ?」
そう言って肩を掴まれた。
「っ」
かなり痛い。肩に爪が食い込んでいる。抗議をしようと振り返るとそこには白髪に赤い目をした小柄な少女がいた。
頭には長い獣の耳がついている。うさぎの獣人のようだ。
「あぁ、やっと振り向いたぁ」
嬉しそうにうさぎの獣人は言う。
「失礼ですが、どちら様ですか?」
名乗りもせずいきなり声をかけ、あまつさえ触れるなど無礼にも程がある。
「ミアだよ」
「・・・・・どちらのミア様ですか?」
名前だけって。平民の挨拶じゃないんだから。まさか平民?
いいえここ王立学園は貴族が通う場所だ。平民がいるわけない。
「ミア・ウェルツナーだよぉ。私のこと、ディアモンから聞いてないのぉ?」
ウェルツナーというと子爵家だ。
そんな彼女が侯爵家の令息であるディアモンを呼び捨てにしたことに周囲は驚いていた。
「ミアねぇ、あなたに謝りに来たのぉ」
そう言ってしゅんとした顔をするけど女の私には分かる。それが計算つくされた演技であることに。
「ミアのせいでぇ、ディアモンと婚約破棄になっちゃてぇ、ごめんねぇ」
公衆の面前でまさかの暴露。
私以上に周囲が驚いていた。
いつかはバレることだし、いいかと私はすぐに切り替えた。
それよりもディアモンは厄介な人を番に持ったようだ。
「獣人には番と呼ばれる方がいるのはジュノン様より伺いました。物語上のことだけだと思っておりましたが、まさか実在するとは驚きました。そんな奇跡が起こったのならこれも神の思し召し。仕方のないことですわ。どうぞお気になさらず」
「本当!気にしてないの!セイレーンって優しんだねぇ」
初めて会ったのにもう呼び捨て。そんな許可、出してないんだけど。彼女は本当に貴族なのだろうか。
「ミア、セイレーンとお友達になりたいなぁ。ダメかなぁ?」
こてんと首を傾ける。その仕草があざとい。女の私には通じないけど。
「ウェルツナー様、申し訳ありませんが私は礼儀を弁えない方と親しくするつもりはありませんわ。それでは失礼します」
何かを言われる前に私は彼女から離れた。
これだけ人目があるのだ。何か起こっても証人は多い。彼女が人目を使って私を侮辱したように私も人目を利用したのだ。
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