第23話 超絶美少女とウォータースライダー

 午前中しっかりと遊んで、お腹がすいた。

 俺と琴美は温水プールから上がってフードコートに移動した。


「七瀬さん。何か食べる?」

「見て回ろうよ」

「そうだね」


 二人でフードコートを回って、それぞれが食べたいものを買って、ケータリングスペースのパラソルがある席に座った。


「それにしても、視線を集めすぎだろ」

「何のこと?」

 

 琴美は自分に向けられている視線に気が付いていないかのように唐揚げを一つ食べた。多分、気づいてはいるんだろうな。気にしてないだけで。俺ならこんなに視線を向けられたら耐えられない。


「七瀬さんが気にしてないならいいんだ」

「何のことかわかんないけど、とにかく食べようよ。美味しいよこの唐揚げ」

 

 確かに、琴美の言う通りその唐揚げは美味しかった。


「うまいな」

「だよね」


 琴美は俺を見てニコッと笑った。この笑顔を独り占めしてるって贅沢だなと思った。

 ゆっくりと、昼食を済ませて、琴美がここに来た時からやりたいと言っていたウォータースライダーに乗ることになった。


「マジで行くのか?」

「もちろんだよ。もしかして、蒼月君怖いの?」


 琴美が俺の弱点を見つけたかのようにニヤニヤと笑っている。俺は、高いところが苦手だった。それに、ウォータースライダーなんて今までの人生で一度も乗ったことがなかった。よりによって、初めてがこんなに大きなやつとは。


「こ、怖くはない。ただ、苦手なだけ」

「それを怖いって言うんだよ。大丈夫だって、私がちゃんとついていてあげるから」

「下で待っててもいいか?」

「ダメに決まってるでしょ」


 琴美は逃がさないというように俺の手をしっかりと握ってウォータースライダーに向かった。

 ウォータースライダーの入口に立ってしなくてもいいのに下を見てみると、想像していたよりも高くて足が震えていた。


「マジでやめないか?」

「やめないよ~。もう、ここまで来たんだから覚悟を決めなよ」

 

 琴美はいたずらな笑みを浮かべていた。

 絶対に後で仕返ししてやる。俺はそう思って、覚悟を決めた。


「私が前? それとも後ろ?」

「え……本当に一緒に滑るのか?」

「そうだよ。ダメ?」

「ダメじゃないけど、ちょっと……」


 これは、怖さより理性を保つ方が大変かもしれない。


「どっちでもいいなら、私が前でいい?」

「それでいいよ」

 

 俺の足の間に琴美が収まるようにしてウォータースライダーの入口に座った。ちょっと進んだら、そのまま下まで一直線だ。


「ほら、行くよ!」

 

 琴美が俺の手を引っ張った。その拍子に俺たちは水の流れに乗った。かなりのスピードを出して俺たちは滑っていく。

 第一関門は長いトンネルだった。


「早すぎるだろ~」

「きゃ~。楽しい~」


 俺が震える悲鳴をあげるのとは対象に、琴美は楽しげな悲鳴をあげていた。

 長いトンネルを抜けると第二関門は螺旋状のスライダーが待ち受けていた。なん回転しただろうか、流れが早すぎて目が回りそうだった。


「もう無理~」

「やば~。面白い~」


 琴美は終始楽しそうだった。

 ウォータースライダーも終盤に差し掛かってきた。あと少しで終わる。あと少しの辛抱。そう思って前を見ると、琴美の水着のひもがほどけそうになっているのが見えた。


「七瀬さん。七瀬さん!」

「うわ~」


 水の音と琴美の叫び声で、俺の声は届いていない様子だった。どうする。このまま、下についたら、水着がはずれるんじゃあ。それはますい。

 俺は、後で怒られるのを覚悟して、琴美の水着のひもをほどけないように掴んだ。


「何? どうしたの蒼月君!?」


 それに気が付いたのか、琴美が頬を赤くして、こちらを振り向いた。


「水着のひもが外れそうだぞ」

「え! どうしよう」

「とりあえず、俺が持っておくから、多分大丈夫だと思うけど、その、我慢してくれ」

「うん。分かった」


 さっきまではしゃいでいたのに琴美は一気におとなしくなった。そして、後ろからでも分かるくらい琴美は耳を真っ赤にしていた。

 あと少しでウォータースライダーも終わる。残りは、プールに飛び出すだけだ。俺は琴美の水着のひもをしっかりと握りなおして、大きく息を吸った。


 バシャん。

 俺たちはプールに投げ出された。もちろん、琴美の水着のひもはしっかりと握っていた。


「大丈夫か?」

「うん。ありがと」

「外れなくてよかった」

「ねぇ、そのままひも結んでくれない?」

「あ、ああ」


 俺は慎重に水着のひもを結んだ。ほどけないようにしっかりと。


「よし、これで大丈夫だ」

「ごめんね」

「いいよ。それより、楽しかったか?」

「うん! 蒼月君は怖かった?」

「まあ、怖かったよ。最後はそれどころじゃなかったけど」


 最後の方は怖さはすっかりと無くなっていた。それよりも、ひもを持つことに集中していた。だから、気が付いた時には水の中だった。


「……帰ろうか」

「そうだな」


 空はすっかりとオレンジ色になっていた。

 気を抜いたら疲れが襲ってきた。家に帰ったらぐっすりと眠れそうだ。

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