第21話 超絶美少女と夏休み初日(そうめん)

 夏休み初日。

 琴美がいつもの時間にやってきた。

 今日の服装は、透け感ある花柄ワンピースだった。

 非常に目のやり場に困る服装だった。本人は気づいてないのか、それともわざとやっているのか、黒の下着が透けて見えていた。


「おはよう」

「来たよ!」


 俺は手ぶらの琴美を部屋にあげて手洗いをするように言った。

 今日は一緒に買い物に行こうということになっている。この後、少し休憩をしてから近くのスーパーに行くつもりだった。


「なんか、一気に暑くなったな」

「ほんとだね」


 俺は冷房をつけてソファーに座った。琴美も隣に座って、一息をついていた。

 今年は猛暑になるかもしれないな。そんなことを思いながら、今日のお昼ご飯のことを考える。こんな暑い日はそうめんとかいいかもしれない。


「今日のご飯は何にするつもりなんだ?」

「う~ん。どうしようかな。蒼月君は何がいい?」

「そうめんとかどうだ?」

「いいね。暑いもんね~。そうめんにしよう」


 お昼ご飯も決まったので、もう少しだけ涼んでから食材を買いに行くことになった。

 そこで、改め考えた。約一ヶ月、夏休みの間、毎日琴美と一緒にご飯を食べることになるのか。もちろん嬉しい。だけど、それと同時に自分の理性を抑えることができるか正直あまり自信がなかった。

 だって、今ですら……。


「どうしたの?」

「な、何でもない」


 琴美の横顔を見ていたら、いきなりこっちを向いたので、つい顔をそむけてしまった。


「ねぇ、なんで顔そらすの?」


 琴美が体を近づけてきた。シャンプーのいい臭いが鼻に届いた。

 まずい。このままだと非常にまずい。


「きゃ……」


 琴美が体制を崩して、それを俺が受け止める形になった。

 むにっと柔らかな感触が伝わってきた。

 さすがにまずいと思って、俺はすぐに琴美の体を引き離した。


「……ごめん」

「いや、それより大丈夫か?」

「うん、どこもケガしてない。ありがと」

 

 二人の間には変な空気が流れた。

 俺はその空気を変えようと咳ばらいを一つした。


「そろそろ、行くか?」

「……そうだね」


 琴美はよほど恥ずかしかったのか、俺と目を合わせようとしなかった。

 俺は俺でさっきから動悸が早くて何とか鎮めようと頑張っていた。

 買い物に行く準備をして、二人で家を出た。


 あんなことがあったばかりだから、買い物の間も二人には会話ははなかった。

 それでも、お腹はすくのでそうめんを買って、急いで家に戻った。


「お腹、すいたね」

「そうだな」

「……早速、作るね」

「何か手伝えることはあるか?」

「う~ん。ゆでるだけだから、特にはないかな。座ってていいよ」

「分かった」


 正直ありがたかった。一緒にキッチンに立っていても、恥ずかしくて何もできなかっただろうから。きっと、琴美も同じように考えていたのだろう。

 俺はありがたくその提案を受け入れて琴美がそうめんを作ってくれるのを待つことにした。


「さっきのだけど、不可抗力だから。わざとやったんじゃないからね」

「分かってるよ」

 

 琴美が言っているのはさっきの買い物に行く前の出来事のことだろう。 


「……嬉しかった?」

「まあ、嫌な男はいないんじゃないか……」


 俺は頬をポリポリと掻いた。


「蒼月君も?」

「まあな……」

「そっか……」


 琴美の顔が少しだけ緩んだ気がした。

 気のせいかな。

 それからすぐに琴美はゆであがったそうめんを持ってきた。


「食べよっか」

「そうだな」


 氷水に浸かったそうめんはひんやりと冷たかった。

 体の熱が一気に持っていかれた気がする。

 

「……」

「……」


 会話が弾まない。初日にこれはどうなんだ。

 そうだ。あの話をしよう。それならきっと琴美も饒舌になるはずだ。


「そういえば、一冊読み終わったぞ」

「え! どの本を読み終わったの!?」


 やっぱり、くいついてきた。琴美の目はキラキラとしていた。

 さて、どう切り出したもんか。


「どうだった? どうだった?」

「近いって」


 琴美はさっきと同じ体勢を取っていた。

 それに気が付いた琴美は顔を真っ赤にしてさっと元の姿勢に戻った。


「あ、ごめん。それで、面白かった?」

「面白かったぞ。ページを捲る手が止まらなかった」

「そっか~。よかった」


 琴美はホッとしたような顔で微笑んだ。

 多分、琴美が選んだ本が俺に合うかどうか心配だったんだろうな。その心配は何の問題もないぞ、と俺は心の中で呟いた。


「後二冊も読むのが楽しみになったよ」

「よかった。よかった。じゃあ、もっと勧めてもいいってことだよね」

「まあ、ほどほどになら」

「やった」


 そのあとは案の定、琴美は饒舌になって俺が読み終えた本の話を永遠としていた。

 文字通り、日が暮れるまで、琴美との談笑は続いた。

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