5
「日下部さんは自分の将来の夢、なにか考えてるの?」と時計を見てから唄は言った。
柱時計の針は五時を指している。
唄は六時になる前には、(やっぱり迷惑になるので)まだ雨が降っていたとしても、日下部さんの家から帰ろうと思っていた。
道子は唄と同じように一度柱時計を見てから唄を見る。
「将来の夢、もちろんあるよ。私の将来の夢、白川くん。なんだかわかる?」
とふふっと笑って(とても楽しそうな顔をして)道子は言った。
唄は少し考えてから「わからない」と自分の正直な気持ちを道子に言った。
「抵当でもいいから、当ててみて」
お茶をひと口だけ飲んでからにっこりと笑って道子は言う。
唄はまた、少しだけ考えてから「先生かな?」と道子の目を見ながら言った。道子は視線を少しも外さずにずっとさっきから唄の目をじっと見つめていた。(まるで本当のなにかの試験でも受けているみたいだった)
「はずれ」と道子は言った。
「じゃあ、なんだろう? そうだな、……料理人とかかな?」唄は言う。
「それもはずれ」と楽しそうな声で道子は言った。
それから二人の会話はまた、少しの間、途切れた。
ざー、と言う雨の音が聞こえる。
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