2 雨の日になると、私は今も、あの日、いなくなってしまった、あなたのことを思い出します。

 雨の日になると、私は今も、あの日、いなくなってしまった、あなたのことを思い出します。


「どうぞ。遠慮しないで入って」

 とても立派な日本庭園の庭を抜けて、二人は道の家の玄関に入った。

 道子の家はとても立派な家だった。

 玄関は広くて、床はよく掃除がされていて、とても綺麗に光り輝いていた。でも、外から見たときと同じで、家の中に明かりはどこも灯っていなくて、なぜかとても寂しい雰囲気を唄は感じた。

「お邪魔します」そう言って唄は道子の家に靴を脱いで上がった。

 綺麗な床の上には唄の濡れた足跡が残った。


 唄がお邪魔をしたのは、庭の見える障子と畳のある大きな客間だった。

 畳が濡れてしまうかも、と思って開いた襖のところで遠慮している唄に向かって道子は「別にそのくらい平気だよ」といって唄の手を引いて一緒に客間の中に入ると、唄に座布団を用意してくれた。

「ありがとう」

 といって、唄はそこに座った。

 それから道子は「ちょっと待ってて。今、タオル持ってくるから」といって、一度、客間からいなくなった。

 一人になった唄はその間、開いた障子の外側に見える雨降りの庭の風景を見つめていた。

 そこからは門からはみ出して見えた松の木がよく見えた。その松の木はもう随分と長い年月を生きてきたように見える、松の木だった。

「お待たせ」

 そう言って道子は真っ白なタオルを持って客間に戻ってきた。

「どうもありがとう」そう言ってから、その真っ白なタオルで唄は雨に濡れた顔や髪を拭いた。

「着替えとかあるけど、着替える? それともお風呂に入る?」大きな木のテーブルの唄のちょうど反対側に自分用の座布団を引いて座ってから、道子は言う。

「そこまで迷惑はかけられないよ。少ししたら、家に帰る」柱にかかっている時計を見て、唄は言う。

 時刻はちょうど四時だった。

「ふーん。そっか」

 と、すごくつまらなそうな顔をして、背伸びをしながら道子はいった。

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