コンビ名は「魔王と勇者」

四拾 六

コンビ名は「魔王と勇者」

ここは田舎の小さな村。


今日はこの村で小さいお祭りが

行われていた。

立派な出店はないが

村人が持ち寄った料理を堪能し

酒を飲み、歌を歌い、騒ぐ。


今日は何をしても怒られない

ので子供たちも大はしゃぎだ。


村の中央には粗末ながら、

小高いステージがあり

皆そこで自慢の技を披露

しては拍手が巻き起こる。


「も、もうすぐ出番だね」

「緊張するー!」


舞台の袖では背が高く

髪の長い黒のスーツ姿の男と

栗色の短髪に白いスーツ

姿の男が自分たちの出番を

待っていた。


『それでは、次は皆さんお待ちかね』


「あーもぅ、そういうハードル上げなくて

いいからぁ・・」

「うー緊張するー!!」


『決して出会ってはならない

この二人組、登場して頂きましょう!

「魔王と勇者」です!!!』


二人は舞台袖から飛び出した。


「はーいどうも皆さんこんにちわー!」

「こにちわ!」

「って、しょぱなから噛んでますやん!

落ち着いて、な?会場のお客さんは

全員スライムやと、思いなさい言うた

やろ!?」


ははは!!と笑いが起こる。


「ほな、改めまして、僕、魔王やらさしてもろてます」

「僕は!勇者です!」

『二人合わせて「魔王と勇者」ですー!』

「今日もよろしくお願いしますね!

さて、勇者」

「はいっっ!」

「・・・って・・元気やな君。今から

魔王城に乗り込む勇者みたいやん」

「やって僕、勇者ですから!

元気だけは出しておかな思て」

「うん、まぁ、いい心がけですわ。

んで、あれやね、今日は初舞台っちゅー事で」


わぁーっと歓声と拍手が起こる。

「がんばってー」と子供の声援も上がった。


「わー、声援ありがとうございます!

後で回復魔法バンッバンかけてあげます

からね!

ほんで勇者、こっからがネタなんやけども」

「って、まだネタ入ってなかったんかい!」

「そんなもん、今からやないかい、でな?勇者」

「はいはい」

「君、魔王の城に来るまで、何が一番キツかった

か教えてくれる?」

「んー、まぁ、急に「お前勇者や」言われて家

追ん出された時かなぁ」

「それ最っ初の最初、まだ王様にも会うてないやん

なぁ?」

観客に振ると

わはっはは!!と爆笑が起こる。


「せやのうて、あれやん、道すがら!道中の

話で何か無いの?」

「うーん、結構ぐるぐる色んなトコ行かさして

もろたんですけど、最終的に、僕の村の

ひとつ道向こうが魔王の城やったのが

わかった時ですかね」

「出発ん時に辺りをよう見とったらよかったですね!」

「あと、これはめっちゃキツかったのが一個あって」

「ほん、何々、それ聞かしてよ」

「初めて敵を倒した時、そいつの血がめっちゃ

緑で、マジでキツかったわ」


しん・・・・と会場が静まり返る。


「あとめっちゃデカい敵倒した時、

そいつの目玉が落ちて来てん、

そいつの下敷きになってもうて!

で、教会送りですわ!

仲間も「はぁ」ちゅーて、

僕も蘇生第一声目は「はぁ?」ってなりました

から」

「なんやそれ、そいで?経験値はどうなってん?」

「そらもう、デカい敵は殺し方気ぃつけなって!

思いましたね、正直」

「ただの経験談やんけ、もうええわ!」

『どうも、ありがとうございましたー!!』


ぱらぱら・・・とまばらに拍手をもらいながら

「魔王と勇者」の初舞台は幕を閉じた。




「結構ウケてたんじゃない??」

「・・・」

「ねぇ、魔王!俺たちこれで食べて

いけるんじゃない?

いい手ごたえだったよ!」

「・・・」


ステージでは次の出し物が始まり

冷え切った観客の心を温めていた・・。


魔王はステージを離れ、木の陰に入ると。

「どうしたの?」と不思議そうにする勇者を

壁ドンならぬ木ドンした。


木は真っ二つに折れた。

だが瞬時に再生した。

魔王の魔法で。


「うわ、びっくりしたぁ・・、何?どうしたの?」

「駄目だよ、勇者!あんなんじゃ僕たち

いつまでたってもバイト生活から抜け出せないよ!」

「・・ばい・・と・・?」

「もう少しウケると思ったんだけどなぁ・・」

「・・ごめん、俺が緊張してて・・」

「いや、ネタを書いたのは僕だから・・。

テンポも良かったし・・何でかなぁ・・・

ウケがイマイチなぁ・・・」

「血が緑とか、目玉とか、殺すとか

直接的な表現が多かったからじゃない?」


きょとん・・とした表情のまま

適格に判断、解析を下す勇者。

「何で練習中にそれを言わないの!」

魔王は、勇者の胸をポンと叩いた。


「がふっ!」


勇者は死んでしまった。


「あわわ!!ごめんごめん!!

蘇生【リライフ】!回復【ヒール】ヒール!!!

ヒール!ヒーーールーー!!」

「はー、びっくりした・・」


勇者は蘇生した。

白いスーツは勇者の血にまみれ

その口元にも血痕が残る。


「あぁぁあ、ごめんよ、まさか死んで

しまうとは思わなくて・・・」

「大丈夫!死ぬのは慣れてるし!

でも練習でも思ったんだけど。

さっきのツッコミ?っていうのは、

僕には耐えられないみたいだ!」


笑顔の勇者。

平謝りする魔王。


二人は丁度1か月前に出会った。



暗雲立ち込める魔王の城。


「やっとここまでたどり着いたか・・」


勇者はここまで供に旅をしてきた

仲間たちを振り返る。


賢者、魔法使い、剣士。


皆、ここまでの闘いで疲弊していたが

やる気は十分に満ちていた。


「よし!行くぞ!!」


勇者の号令と共に、空に雷鳴が走り

3人の仲間たちを包んだかと思うと

その光は遥か彼方へと飛び去った。


「え?えーーー!!!

皆!僕、もう回復薬持ってないよ?!

ちょ・・・、」

『おいで』

「え?」


魔王城の扉は開かれ、勇者は導かれる

ままに魔王城に入った。


『え?!本当に入ってきちゃうの??

回復薬とか買いに街に戻らなくて平気?』

「ああ!多分、大丈夫」

『ああああ!君!そこ溶岩だよ?HPゴンゴン

減ってるけど平気?』

「大丈夫さ!僕はゆ」


勇者は死んでしまった・・・。


『あぁぁあ、もう、だから言ったのに・・・

リライフ、ヒール』


勇者は蘇生した。


「あれ?いつも死んだ後は棺桶の中

って・・・そうか!棺桶を運んでくれる

仲間が居ないんだ!」

『うんうんそうだね!冷静に考えて偉いね?

もう一度街に戻って、装備とか立て直そう??

そんな紙みたいな装備じゃ・・』

「大丈夫さ!俺は勇者だから!!」


勇者は進む。

どんどん突き進んだ。


『あの、魔王様・・さすがにエンカウントゼロ

ってのは・・』

『だって君たち、あの子を殺さないよう攻撃

出来るかい?』

『無理っすわ・・何あいつ、TAでもしてんっすかね』

「どこだ魔王!出てこー・・・・」

勇者は毒の落とし穴に落ちた。

勇者は死んでしまった。

『誰だい!あんな所に見え見えの落とし穴作ったの!』

『いや・・ひっかかります?普通・・』

『リライフ、ヒール!!君!大丈夫?!』


勇者は蘇生した。


「どこだー!魔王めー!!」勇者は走り出した。


『3歳児っすかね・・』

『・・・、あぁ、えと、君、そこの曲がり角を右ね右、

右!!スプーンを持つ手の方ね!』

「僕は左利きだぁーーー!!!」

『ダメダメそっちは毒の沼!ほらドクロとかこれ見よがし

にドクロとか置いてあるぞー!怖いぞー!』

「怖いものなんかない!僕は勇者だーー!!!」


勇者は死んで・・・・・


『はいおめでとう勇者!そこの宝箱に勇者の鎧一式と

剣、まさかの時の為に回復薬がたっくさん入ってる

宝箱があるよ!開けてみよう!』

「おお!」


そこは素直に宝箱に飛びつく勇者。



そして勇者は魔王の間にたどり着いた。


「ここまで良く来れたね、勇者」


魔王の間ではモンスターと魔王が拍手で

勇者を出迎えた。


勇者が剣を抜く。


「魔王倒す、魔獣・・殺す・・・」

「いやいやもう・・・ほら、ぎゃー・・・やられたー・・・・」


魔王はそこに倒れ・・周りのモンスターもお互いを

チラチラ見ながら魔王と同じように倒れた振りをする。


「まお・・・?たお・・・」

「うん、魔王倒したよ?君の旅はこれでお終いだ。

よく頑張ったね。」


「まお・・・コロ・・・ス、マジュウ・・・・・コろ・・・ころ・・

ごろぐぁあああーーーーーーーーーーー!!!!!」



「うわぁ!」モンスターたちの群れに飛び込む勇者。

逃げるモンスター達。


「いけない・・少し遅かったか」


魔王はモンスターたちを他の部屋に転移させると

勇者と一対一で向き合った。


「ぼ、くは・・ゆ・・・しゃ・・・、まおう・・・ころ・・・・」

「・・・・なんて残酷な事を、魔王より恐ろしい」


魔王は知っていた。

何故自分が魔王と呼ばれるのか。


それはこの国で一番魔力が強く、魔術に長けた

そういう「種類」の「生き物」だからだ。

モンスターたちもそう、そういう「色・形・大きさ」で

産まれてきただけの「生き物」だ。

基本人間と何も変わらない。


魔王がこの地に住処を決めた頃

人間はまだ少数しかいない生き物だった。

だが瞬く間にその数を増やし、村を作り

街を作った。


何百年前だろうか・・人間が突然モンスターに

攻撃を始め、魔王を人間の敵だと触れ回った

のは。

魔王は人間に傷つけられた魔物を自分の住処に

連れ帰り、傷の手当をした。

外に出るとまた人間に襲われるかもしれないから

住処に匿ううち、最初は小さな小屋だった住処は

いつの間にか城のような大きさに改築して行った。

人間の住むような「城」の形にしたのは

「自分たちは敵ではない」というアピールだった

のだが、逆に人間たちは


『あの城に住まう魔王を討伐すれば世界に

平和が訪れる』


と言う伝承を残した。

最初は数百規模の騎士団が城に攻め入って

来たが、転送魔法で追い返した。


あまりに何度も攻め込んで来るので

「魔王はある一人の勇敢なる者に討ち取られた」

と国王に手紙を書いて送った。

そうする事で人間たちは束の間の平和を謳歌した。


そして伝承は綴られる。


勇者の血を引く若者が勇者となり、魔王を打ち滅ぼす。と。


魔王はあまり気には止めなかったが

人間の世界に大きな災い・・疫病の蔓延や、紛争などが

起こるとこの土地にある国の国王は

その原因を「魔王」と断定し、勇者を送り込んで来る。


魔王は溜息をつきながらも、勇者を無傷で国に送り届け。

「勇者は見事魔王を討伐した」と国王に手紙を書いた。


そんな事で疫病が収まる訳でも、不作が豊作になる訳

でもないので、国に出向いて薬の知識を与えたり

農作業の手ほどきをしたり・・・

その影で「勇者」は地位と名声を手にするのだが・・・

ある日必ず何者かに殺されてしまう。


勇者に地位を奪われまいとする国王の密命に於いて。


こうして勇者と魔王の闘いは数百年に一度行われる。

何度目かの勇者との対峙で魔王はある異変に気付いた。


誰もが人間としての精神をすり減らしている。

魔王城に着く頃にはもう精神に異常をきたしている

者もいた。


16歳の誕生日。

母とのつつましい暮らしの中で突然「勇者」として

枷をつけられる。

国も今まで勇者が魔王に屈した事はないのを良い事

に、殆ど着の身着のままといった恰好で国から

出立させる。


それは彼が道中死んでも蘇生させることができるからだ。


蘇生の魔法もタダではない。

案の定すぐにモンスターに殺されて戻ってくる死体に

「死んでしまうとは情けない」と冷たい言葉を投げかける。

そしてまた、死地に向かわせる。


剣の振り方も、モンスターとの闘い方も知らない子供。

何度も死という恐怖を体感し、蘇生されては罵られ。

また死地に赴く。

時には仲間が死んでしまうのを目の前で見る事もある。

殺され損ね、殺してくれと懇願し叫びのたうち回る日も

毒に侵されじわじわ死んで行くのを待つ日も

炎に身を焦がしながら死ぬのを待つ日も

死んで死んで殺して死んで・・・・・


そして勇者は心を失くす。



「僕の話、理解できたかな?」


広い天幕付きのベッドの中、勇者は

ぼんやりと天井を見上げ


「棺桶の中じゃない」と呟いた。

「んー・・、まだ無理かな・・?」


この勇者はまだ「死」に囚われているようだ・・

毎朝目を覚ますと同じ言葉を繰り返している。

だが、他の勇者よりはまだ軽傷の部類と言えた。

時折言葉に詰まったり、モンスターを

見かけると自我を失くす癖はまだ治らないが

それ以外は健康体だ。


「・・・まおう・・、は、倒した。国は・・・へいわになる」

「!うん!そうだよ、だからね、もう大丈夫だから!」

「でも・・お前・・魔王・・・」

「もう悪い事はしないよ、君が悪い僕を倒してくれたから」

「・・・そう・・か・・よか・・・」

「明日から、僕とお話しようか、疲れたら眠って、

お腹がすいたら食べ物も沢山あるから・・」

「食べる・・」


勇者は子供のように笑った。


こうして毎日勇者と会話をして、手足のマッサージをしたり

物語を読み聞かせたり、綺麗な景色を見せたり・・・

そうしているうちに勇者も元気を取り戻しつつあった。

だが、まだ心の傷は深いだろう・・


「やっぱり笑いかな・・」

「・・笑い?」

「うん、お笑い、僕、結構好きなんだよね」

「おわら・・い?」

「勇者も良く話せるようになったから、二人で

コンビ組んで漫才とかしない?」

「・・まんざい?何、それ・・・」

「あ、テレビテレビ、テレビ見せてあげるよ!

お笑いの、きっと気に入ると思うよー」

「・・・てれ・・・び??」


勇者は首を傾げたままだ。


「僕が君の知らないものを沢山見せて

沢山笑わせてあげるよ!」

「・・ふっ・・ははっ・・ははっ・・!!」


勇者が笑う。


「魔王が勇者をっ、笑わせるのか?

面白い!」

「ああ、面白いだろう?ふふ・・っ」


正午過ぎの爽やかな風が吹き抜ける

部屋には、いつまでも勇者の笑い声が

響いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る