逆襲の始まり 2
ガルフ来訪の前夜。
私は城の住人、子ども達全員に話をした。
年少、未満の子ども達も含め、今回は本当に全員に。
「みんなにね、相談したいことがあるの。
ちょっと長くなるけど、聞いて?」
私は話した。
なるべく小さい子にも解りやすく、この不老不死の世界の事。
私達が捨てられて、この島にいるわけ。
外の世界の事。
外にいる子ども達を助けに行きたい、という思いも含めて。
私の真剣な顔、そして今までの状況で理解してくれたのだろう。
誰一人、ふざけないでくれている。
「やっぱり、お外にいっちゃうの?」
「うん」
縋る様な目のギルに、目線を合わせた。嘘はつかない。
我が儘に巻き込む子ども達には悪いと思う。
「私は、みんなのお姉ちゃんで、保育士だけれど、外の世界で困っている子も助けたいの。
外の子たちも、みんながここか、ここみたいなところで、楽しく過ごせるようにしたいと思っている」
「かえってこないの? マリカ姉や、リオン兄フェイ兄、みんな?」
心配の眼差し。私がギルを強く抱きしめて首を横に振る。
「それはしないよ。
私のおうちは魔王城だし、みんなを置いて外の世界に、ずっといる、なんてことは絶対、しない。
ガルフだって、ちゃんと帰って来るでしょ?
ただ、ちょっとお仕事に行くだけ。
みんなのお友達を助けに行くお仕事に」
私的には毎日戻って来るくらいのつもりでいる。
今までより、ほんの少し外に出る時間が長くなるだけだ。
「いずれ、みんなも島の外に連れて行きたいと思ってる。
外で力を貸してほしいとも思う。魔王城の島とは違って色々と危ない事が多いから、もう少ししてから、だけどね」
「よかったあ。ちゃんとかえってくるんだね。どこにもいかないんだね」
「大丈夫ですわ。マリカ様たちは必ず帰っていらっしゃいます」
涙目を擦るギルの背中をティーナがポンポンと優しく叩く。
皆を信じられるから、私は決行する決意ができたのだ。
「だから、暫くの間、私達を信じて待っていて。
ティーナとエルフィリーネの言う事を聞いて、毎日のことをちゃんとやっていて欲しいの」
みんなに告げてから、年長組。
アーサー、エリセ、アレク、ミルカを見る。
「おれ達も手伝えない?」
パチン、と視線があってアーサーが真剣な目で言ってくれるけれど、同じ目で、アレクやエリセ、ミルカも私を見るけれど、今は首を横に振るしかない。
「今回は我慢して。
みんな、必ず外に出られるようにする。もうその計画も立ててるの」
アレクの演奏、今はエリセの精霊術、アーサーの力も、ミルカの知識もきっと本当に必要になってく。
でも、その為にはまず子ども達を安全に外に出す為の環境を作らないといけない。
「だから、小さい子たちのことをお願い」
「前に出るばっかりが戦いじゃない。お前達を、信じているから俺達の一番、大事なものを任せるんだ」
リオンがなおも、食い下がろうとしていたアーサーを眼で止める。
アーサーは顔を下げた。
これが、城を襲う敵との戦闘、ということだったら、もっと食い下がっていたであろうし、リオンもしかしたら連れて行ったかもしれない。
でも、今回の戦いは直接戦闘ではない。
世界を騙すコンゲームだ。
「俺達が側にいなくても、魔王城の生活と、兄弟を守れ。
それが、今のお前達の最重要任務だ」
言葉は鋭く、厳しいナイフのようだ。
でもそれを告げるリオンの眼には、信頼と優しさがある。
「いいか?」
「わかった」
「アーサー?」
まだ迷うような視線を受け止め、アーサーが兄弟たちを見た。
「いつまでもグダグダ言っててもむだだ。おれたちにできることがあるなら、リオン兄たちはつれてってくれる。
つれてってくれないってことは、やくに立たないってことだ。
おれは、おれのせいで、リオン兄たちの足手まといになるのはもういやだ!」
「アーサー…」
アーサーの手が固く握りしめられた。
ぎゅっと噛みしめられた唇が一番最初の後悔をアーサーが今もまだ忘れてはいないと伝えている。
「だったら、おれはここで、リオン兄たちが帰ってくるのをまつ。
帰ってくるまで、だれもケガさせないし、欠かさない」
「…わかった。私も、マリカ姉がおでかけしても大丈夫なようにがんばる。
ごはんも、みんなの分、ちゃんと作るから」
「ぼくは元々、戦いに出てもやくにたたない。なら、お城でできることをしてまってるよ」
「エリセ…アレク」
私は目元が熱くなった。
この異世界で、保育士をするなんて気取ってみたけれど、自分に何が出来たのだろうかと思うこともあった。
でも、子ども達は成長している。
ギフトではなく、能力ではなく、読み書きなどでもなく。
自分の力を理解し、状況を把握しようとする。
自分のやるべきことからにげず、できることをやろうとする。
他人を思いやることが出来る。
それが、人間として一番大事な成長だ。
「私も、ガルフの手伝いに戻りたいと思います。
でも今はまだ力が足りないことも解っております。だから、今は待ちます。
力を付けます。だから…」
ミルカも目を伏せ、頭を下げる。
その手は祈りに組まれ、震えていた。
「うん、いつか必ず連れて行くから…」
「おるすばん、できる」「まってるから」
「はやく、かえってきてね」
子ども達の声に、私は誓う。
「うん、私達のおうちは、ここだから。
必ず、何処に行っても、帰って来るからね」
人の声が聞こえる。
大きく、深呼吸。
勝負は、ここからだ。
「大丈夫だ。俺達は絶対に負けない」
私を抱きしめるリオンの声が聞こえる。
頭の中の大人が言っている。
そんなことはない。根拠はない。負けるかもしれない。
子ども達を傷つけてしまうかもしれない。
でも、今はそんな大人はいらない。
子どもでいい。
今はただ、成功だけを信じて。
「うん、行くよ」
私は凛と立つ。
「随分、遅いご到着でしたこと。神の手先の皆様方」
新しい、魔王として…。
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