第73話

 段々畑が等高線を描く。

 既に収穫の終えた畑は土も見えぬほどの草に包まれている。畑は人の手により耕され、再び種を撒かれるのだ。そうして得られた穀物は食料としてはもちろんのこと、飲み物の材料にも使われる。アルコール飲料の一種のようで、ミツキは昔一口飲んで噴き出した。

 揺れる馬の背の上で早めの弁当を食べる。

 ベーコン、レタス、トマトから成るシンプルなサンドイッチだ。パンからはみ出てしまうほど、新鮮で大きな具材であふれている。それが三つも入っているから、見た目だけでも満足してしまいそうだった。

 苦労しながら両手で支えてかぶりつく。

 薄くかかった塩によりトマトの甘みを際立たせる。レタスの歯ごたえを楽しみながら、硬いベーコンを噛み千切った。

 遥か遠くの丘の上に蛮族の居城がそびえ立つ。かつて猛威を振るったヴァンパイア一族の屋敷だが、今は廃墟となっている。特徴的な外観の為、影を見る度に帰ってきたと実感させられる。

 取り分けて目立つ会話も無く、三人は静かに街道を行く。

 食事中は綺麗な快晴だったのに霧が立ち込め雨に変わった。時折雪が降るほどに空気は冷え込み澄んでいる。久々に薄い空気の感じを身体はすぐに取り戻した。

 ニ、三日して第一の関所を通過した。

 帝都直属の近衛兵の敬礼に目もくれず、三人は山道を更に進める。第二、第三の関所を越えて、更に峰の頂上を目指す。

 吐き出す息は白くなり、冷たい空気に溶け込んでいく。小さな渓流を見つけては馬を止め、休息を挟みつつ進んだ。

 さらに数日が過ぎた時、ついに峰の頂を越えた。

 三人の眼下には、二本の山脈に囲まれた広大な窪地が広がっている。自然にできた花畑には小川が流れ、窪地の中央へと流れていく。流れの先には爪先ほどの建物が並び、中央へと向かうにつれて高さが増していた。

 環状の二重壁に囲まれた帝都の中でも目立つのが、ゴシック式の城だった。中央の主塔に対して、大小様々な尖塔が周囲を囲む。高い位置で主塔を支える為の梁が、各尖塔から伸びていた。

 皇帝城が日差しを受けて赤く輝く。

 やっとここまで戻ってきた。砂漠に遭難してから約一カ月、他のみんなやレナームはいったいどうしているだろう。空を見上げてみた物の巨鳥の姿はどこにもない。きっと近くを気ままに飛んでいるはずだ。呼べばすぐに来るだろう。

 雪が覆う草花の中、ソードは手綱を取り上げると馬を蹴り上げ走らせた。

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