第18話
光は三つに分裂し、徐々に姿が明らかとなる。
霊体の騎馬に跨る頭部のない騎士だ。女用プレートアーマーに身を包み、外套をはためかせ疾走する。腰にランタンを下げており、今まで捕獲してきたであろうイグナイト達が大勢押し込められていた。
魂を回収し、導く者であるデュラハンを筆頭に、亡霊騎士の小隊が後ろに続く。綺麗な二列縦隊を形成し、全員がデュラハン同様、イグナイトを閉じ込めたランタンを下げている。
ミツキは果実を乗せたバックラーを置き、剣を抜く。
彼女らワイルドハントが行うことは、この世の魂の回収である。死してなお彷徨い留まり続ける魂に限らず、生きとし生ける者達からも奪い取り去っていく事もある。
デュラハンが背中の戦斧を片手で引き抜く。馬上から馬上へ、もしくは地上の敵を薙ぐために、極めて長い柄を有している。片手で手綱を持ったまま、長い柄を背後に回し、刃を正面へと向けた。
何もかもが不利だった。人数も、防具も武器も、機動力も、そして攻撃魔法が使えない事もだ。体力も装備も万全ではないし、足回りだって砂地で悪い。ワイルドハントの駆る馬は大きく力強く、霊体ながら浮き出た筋肉が動作に合わせて隆起する。
月光に戦斧が明るく輝く。
ミツキはバックラーの代わりに、ワイバーンの尾を固く握り締め、デュラハン目がけて力の限り振り下ろす。元来、強靭だった尾はしなり、空を裂く音が鋭く響く。霊体の身体を突き抜け鞭が炸裂し、白い砂が破裂した。鋭い尾の一撃を気にも留めず、速度を緩めることなく突進する。
すぐに脇へと飛び込んで、頭を抱えて地に伏せる。
鼻息荒く馬たちは、ミツキの頭上を越えていく。
死にはしないと分かっていても、たくましく、重量のある騎兵を前に、本能が身を守ろうと警鐘を鳴らす。足音立てずに走る一団の中を、必死になって転がり回ると嵐が去るのを待ちわびた。
死霊騎士の軍勢は、ミツキなど初めから眼中に無いようで、立ち止まりもせず遺跡の中に消えて行く。つむじ風のような一団が去ったと見て取るや否や、ミツキは砂を払い立ち上がり、短剣とワイバーンの尾を握り直す。
一体の騎兵が彼女の前に佇む。
外套と、イグナイトのカンテラを風になびかせたデュラハンだ。戦斧を短く立てて持ち、無い頭でミツキを見据える。細かな砂が風に色を付け、二人の間を抜けた時、馬が前足を高々と掲げて嘶いた。
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