第14話

 ミツキは建物の外に出る。今まで気にもしなかったが注意して見れば、翠玉の彫像はいたる所に存在していた。

 建物の中、屋根の上から通りの中央にまである。目にしただけでも数十体か、それ以上もの数にも上り、総じて剣を持つ兵士か、もしくは恐れおののく人々に大別された。

 もちろん彫像の一体一体はどれをとっても傷は無い。屋外に晒され続けた像だけは、わずかな傷が付いているが気に留めるほどでは無かった。いずれにしてもその表情は異様なほど生々しい。腕を曲げて浮き出た筋肉の盛り上がりから、指毎に異なる爪の形さえ表現され、悪趣味なまでに几帳面な製作者の性格が十二分に見て取れた。

 かつての通りをまっすぐ進む。砂埃で霞む視界の先に、様相の全く異なる建築物が見えてくる。

 霞み、曇った大理石のような白く黄ばんだ石材で、頭三つ分ほど高い。

 ミツキが今いる通りは正面のファサードへと続き、幾何学的かつ抽象的な彫りの浅い彫刻の巨大な門が、半壊しその口を大きく開けていた。

 権力者と呼ばれる存在は高い場所に住みたがる。この世界でも、元の世界でも同じことで、もはや世界を越えて共通する法則かもしれない。

 もし、この法則が当てはまるなら、亡国の王の城となる。

 崩れた門から入り込む。太い柱が立ち並ぶ回廊が真っ先に姿を現す。緑の彫像は数え切れぬほど並び、武器を手に争う兵士を象っている。

 建物内は打って変わって適度に陰り、穏やかな風に満ちている。長方形の広間は砂の浸食も無いに等しく、正面には金細工がふんだんに施された椅子が安置されていた。

 当時の王の応接間か、謁見の間といったところだろう。装飾を細かく見る気にもなれず、外套を外して玉座に掛ける。果実の乗ったバックラーと、ワイバーンの尾を脇に置くと倒れるように座り込む。

 左右のブーツを放り出す。歩き疲れて痛む足を肘置きに置き、反対側を枕代わりに頭を乗せる。眠気の淵に呑まれる前に防具を外してしまおうと、遅々とした動作で外しにかかる。

 広間を抜ける風が心地よい。普段の倍は時間をかけて、武具と防具を外しとる。乱雑に投げ出されたアーマーは汗と砂とワイバーンの血にまみれ、一部は傷付き、焼け焦げてすぐにでもメンテナンスが必要だった。

 無いとは思うが念のため、短剣を腹に抱え込む。万が一にも敵が来たときに必要となる、実用的なお守りだ。頼れる者は自分しかいない。防具は無くともなんとかなるが、武器だけは手放すわけにいかない。

 剣の重さを感じつつ、外套を大きく広げて身体にかける。たった一度のまばたきなのに、瞼は二度と開くことなく、眠りの淵まで真っ逆さまに落ちていった。

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