第4話

 太陽と炎の化身の巨大な鳥は、旧都の崩れた城壁を飛び越えた。滅多に雨の降らない乾いた大地はひび割れて、わずかばかりに残った低木には火が灯っている。火球によって溶けた大地は夜の冷気に充てられて、早くもガラスと化しつつあった。

 他の勇者たちも順調らしいに駒を進めているようで、彼女らが扱う魔法が近くに感じられる。爆音や轟音、底の見えぬ闇、そして吹き上がる溶岩の熱が伝わってくるようだ。

 一足先に次の目標へと向かう。魔族以上に強力でレナームと同格とされている。第二目標ではあるが真の討伐目標であり、魔族など比較にならない存在が旧皇帝城に出現すると予測された。一体だけでも災害級の魔力を持つとされている。想定される危険度は藍だが、数多の魔族の真只中であることからも依頼ランクは最高難度の紫となった。

 レナームは炎を口に蓄えて皇帝城の最も高い塔へと放つ。草木を一気に焼き払い、古びた塔の外壁を貫き穴を開ける。翼を閉じると勢いのまま、巨鳥は塔の中に止まった。

 二人は背から飛び降りる。

 天窓のステンドグラスの影響で月の光が青から赤に、緑に、紫へと変わる。真昼の太陽ほどではないが注ぐ光は充分だ。

 かつての礼拝堂だろうか。もしくはそれに近しい何かの為の空間だった。並べられたベンチは全てが木屑に変わり、厚く埃が積もっている。奥には壊れたオルガンと、数多の金属パイプが壁を伝う。わずかに残った壁の空間は細かい装飾にて埋め尽くされて、彫刻なのにメリハリの無い、むしろ平坦にも感じるほどにやかましい。

 バロック様式を暴走させた。そんな表現こそふさわしい。彫刻の刻まれてない壁面を探す方が難しく、生物、植物、得体の知れぬ何かによって徹底的に支配されている。支離滅裂で、統制の無い。混沌とした装飾だった。

 このフロアには何もない。そう結論し、下層へ移ろうとした時だった。

 レナームが激しく鳴き、羽を落として飛び上がる。巨鳥が睨む先で不自然な魔力が集う。それは黒い炎に変化すると、たちまちの内に膨れ上がった。

 羽が舞い、白い炎が放たれる。肌を焦がすほどの白炎を黒い炎が迎え撃つ。二色の炎はぶつかり合って反発し、辺りに熱波と風をもたらす。渦巻く黒炎を引き裂いて現れたのは、魔神と呼ばれる存在だった。

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