第四部 第七十話 才能と努力


 遡ること一時間前。


 里奈の精神感応を破った舞友はベッドの上で目を覚ました。


「っは」


「わっ!」


 目を覚まして、上半身を起こすとすぐそばで口を開けたシオンがいた。


「びっくりしたぁ。もー、急に起きないでよ」


「シオン……」


「大丈夫? どこか悪いところない?」


 心配そうに顔を覗き込んでくるシオンに対して、舞友はゆっくりとうなずいた。


「それより、里奈は?」


「いま燈が相手してるわ」


「私もっ」


「おっと」


 慌てて立ち上がるが、体勢を崩したところをシオンに受け止められる。


「無理しない。精神感応を自力で破ったんだから」


「それでも、私がやるのよ……」


 シオンははぁとため息をついてから、舞友を立たせる。


「しょーがないなぁ。アタシも手伝ってあげる」


「……いいの?」


「乗りかかった船だしね。それに、フラフラの舞友っちを放っておけないでしょ」


「ありがと」


「お礼はいいって。それよりも、勝算はあるの? 副会長ってことは結構強いんでしょ」


「えぇ、強いわ」


 剣術と活強の腕前なら、同学年の男子より腕が立つほどだ。


「でも、私には勝つ根拠がある。それは━━━」


 その時言われたことを思い出し、シオンはゆっくり波動刀を構えた。


「ふうん。やけに強気じゃない。実技試験で私に勝ったことない、二位のくせに」


 里奈の言う通り。活強と剣技が苦手なため、舞友は実技の成績で里奈の後陣を拝している。シオンの助力を得ても勝てるかどうかは五分。


「だからこそ勝たせてもらうわ。最後の機会に、ね」


 挑発をあっさりと返され、里奈はムッとする。


「それに━━━あなたにあまり時間をかけたくないの」


「っ!」


 挑発に乗った里奈はそのまま波動刀を構えて突撃してきた。


 シオンに向かって。


「!」


 予想外の攻撃。てっきり舞友に攻撃すると考えていたシオンは完全に虚を突かれた。咄嗟に迎撃するが、風の剣技は防御に弱い。あっという間に刀を弾かれ、腹に蹴りを入れられた。


「ぐっ!」


 シオンを蹴り飛ばした里奈はそのまま舞友に向け接近する。


 距離は五メートル以上離れているが、この時点で舞友の敗北は決定的。術士は接近されればまず勝ち目はない。相手が接近戦に優れた剣士であればなおさらだ。


「ふふっ」


 里奈は笑って、なんと水の波動を抑えて波動刀を手放した。


 価値を確信しておきながら武装を捨てる暴挙に、目を見開く舞友。対して里奈は精神感応の術式を準備する。


 空き教室での攻防と同じだ。舞友には躱す時間もないし、術式を防ぐ手段もない。


「今度こそ忘れさせてあげる!」。


 術式を組み込んだ手を伸ばす。残り一メートルと少し。


 勝った。そう確信した瞬間。


 舞友が崩れ落ちた。


 疑問を感じたと同時に、


「ごふっ!」


 里奈の鳩尾に鋭い衝撃が走った。


 呼吸が止まり、視界が点滅する。震えながら足元を見下ろすと、腹に波動杖が刺さっていた。


 信じられない。目を見開く。


 舞友は崩れ落ちたように倒れたように見せかけ、武道家のように腰を落とし、波動杖で里奈を突いたのだ。


「痛……」


 突進を受け止めた両手を振る舞友。波動杖が地面に落ちる。


「あ、う」


 全力の突進を急所で、それも細い錫杖を通して受け止めた里奈もその場に倒れる。


「ま、さかね。舞友が……活強、を」


 動きを読まれたせいで地面に転がる羽目になったが、まだそれはいい。


 入学当初から一緒に過ごした友人だからこそ、読まれることもあるだろう。


 だが、里奈は術士だ。活強が苦手で、本来使う必要はなく、成績は下から数えたほうが早いくらいだ。


 それなのに、自分の全力に対して活強を使って完璧にカウンターを決め、とどめを刺してくるなんて。


「当然よ。あなたを倒すために、ずっと努力してたんだから」


 その言葉を最後に、里奈は床に倒れ、意識を失った。



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