第四部 第六十九話 友だち
「アタシもいるわよ~」
舞友の後ろからひょっこり姿を現すシオン。波動刀を装備している。
「二人とも……」
「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
舞友の表情は今までと全く違った。険が取れたとでもいうか、憑き物が落ちたような顔をしている。まっすぐで生気が宿った瞳が燈に向けられる。
「燈殿下は妹君のところへ。里奈との決着は私たちが」
「……わかった。ありがとう」
今の舞友なら任せられる。そう判断して燈は踵を返した。
「くっ」
行かせまいと里奈は立ち上がるが、その前に舞友とシオンが立ちふさがる。
「ふーん。私がせっかく忘れさせてあげようと思ったのに。結局今まで通りなんだ」
「……さ、それはどうかしらね」
あっさりとした態度に里奈は顔を顰めるが、舞友はあえて無視をする。
「覚悟しなさい。あなたはここで捕らえる」
「できるの? 私の術式を破ったのは賞賛するけど、だいぶ消耗しているみたいじゃない」
「……そうね」
里奈も燈と戦っているとはいえ、術士の舞友が直接剣士の里奈と戦っても勝ち目は薄い。
「でも、今の私は一人じゃないから」
「そーそー。アタシもいるからね」
「……あなたね。私の術式を解除したのは」
食堂で会ったときと同様、露骨に顔を顰める里奈をシオンは軽く流す。
「残念ハズレ。破ったのはあくまで舞友っちよ。アタシがしたのはあくまで手伝いだし。大体、あんたザルすぎんのよ。舞友っちを救出できたのもアンタのおかげみたいなもんだし」
「気に入らないわね」
里奈が珍しく、露骨に嫌がる顔をした。
「私たちとなんの関係もないでしょう。なんなのよ。あなたは」
「はぁ? そんなの決まってるじゃん」
なんでそんなこともしらないのといいたげにシオンは胸を張った。
「アタシは舞友っちの友達よ」
「……そうね」
あまりにも一方的、それも出会って二か月と経ってない相手から言われているが、舞友は嫌ではなかった。
「友人ね。好きにしたら。私も好きにさせてもらうから」
「そうはいかないわ。あなたは私たちが止める」
舞友とシオンは肩を並べて互いの波動具を構える。
「あなたを止めて、侵入者も排除する」
「できるかしら? 急造のチームで相手しようだなんて、なめてくれる」
里奈の波動が爆発的に広がる。
舞友とシオンは顔を見合わせて、うなずく。
「行きましょう」
「まっかせて」
剣士のシオンが前衛、術士の舞友が後衛という教科書通りのフォーメーションを組む。
「水刀の壱 水流刃!」
「炎術の壱 火炎珠!」
里奈と舞友の波動術がぶつかる。術式の壱はあらゆる属性の基本。授業で、部活で、自主練で何万回と放った波動術は成績を競い合う仲なだけあって互角。
相殺され、里奈が放った水が水蒸気となり、くぐもった破裂音が響く。
「はぁあああっ!」
「甘い!」
水蒸気を目眩しにしてシオンが斬りかかるも、里奈はあっさりと防いでみせ、さらに力を抜いてシオンの攻撃を受け流す。
「シッ!」
「くっ!」
バランスを崩してつんのめるシオンに向けて里奈が波動刀を振り下ろすも、シオンは活強で脚力を強化し一気に駆け抜ける。
追撃する里奈。応戦するシオン。鋭い金属音が五回響き渡る。
里奈が繰り出す水の剣術は連続攻撃に特化している。流れゆく水のように滑らかで、舞のように華麗な剣技を繰り出す。
対して、シオンが操る風の剣術は自由自在な足運びと遠距離攻撃に特化している。風のように自由に動き回り、相手を翻弄し、全てを切り裂く風はあらゆる波動術において最長の間合いを誇る。
両者の相性に有利不利はない。故に、互いの力量がそのまま結果に反映される。
「ちっ!」
シオンの制服の袖を里奈の波動刀が捉えた。
室内とはいえ、広い訓練場だ。風の波動を使うには十分な広さがある。にも関わらず十二神将である燈と互角に戦うシオンが完全に押されているのは、
━━━ああもう、本調子なら学生なんか!
学院に入学するにあたりシオンの波動が封じられているからだ。
さらに、里奈もシオンに対しどんどん間合いをつめてくる。
これでは有利な戦いができないと判断したシオンは活強で一気に高く飛ぶ。
「ふん、温いわね!」
里奈もシオンを追うように飛び上がる。
「しまっ!」
「水刀の陸 瀑布天墜!」
シオンの着地に合わせて里奈の波動術が炸裂する。最高到達点から落下すると同時に大量の水を溢れさせ、同時に斬りかかる。大量の水はまさに滝を思わせる、怒涛の攻撃だ。
まともに食らえば確実に致命傷になる一撃、それを、
「炎術の伍 鳳翼炎!」
巨大な炎の鳥が滝にぶち当たり、波動術を相殺した。
「大丈夫?」
「平気平気。ありがと」
シオンがひらひらと手を振ったので、舞友は安堵する。
「あら、即席のコンビにしてはなかなかやるようね」
着地した里奈は感心しつつ、こちらに歩んでくる。
「さっすが副会長、こりゃまともにやっても勝てないわ」
「そう落ち込むことはないわよ。途中編入にしてはなかなかの腕ね。よかったら生徒会に来ない? こき使ってあげる」
「あはは死んでもお断りだっつの」
火花を散らすシオンと里奈にため息をつきながら、舞友は里奈の前に立った。
「遊びはここまで。そろそろ終わりにしましょう、里奈」
舞友は波動杖を里奈に向けつつ、シオンとアイコンタクトを取った。
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