第四部 第六十五話 実技試験
燈が里奈と大立回りを演じているころ。
宗次郎は訓練区画において実技試験を受けていた。
男女合わせて2万人を超える受験希望者は、最初に小規模の訓練場、屋内外関係なく集められた。
まず行われたのは一対一の模擬戦闘。教師陣が選定した四人組で総当たり戦を行う。制限時間は三分、武双は木刀のみ。三本勝負のうち一勝でもすれば次の試験を受けられる。
宗次郎は全勝で通過した。というより、不戦勝に近い形だ。同じ組になったほかの三人ははなから宗次郎との勝負を放棄していた。
無理もないと宗次郎は思った。ただでさえ筆記試験で疲れているし、実技試験はまだ続くのだ。ここで全力を出して後で響いてはそれこそ愚の骨頂だろう。一勝さえすればいいのなら、宗次郎以外の誰かから勝利すればいいのだから。
納得しつつも不完全燃焼な宗次郎が次に挑んだのは、波動の放出量を計る試験。空になった波動石に波動を込め、満タンにしていく。制限時間内にいくつ満タンにできるかで競い合う。
これもなかなかに意地が悪い。試験の内容そのものはシンプルだが、波動を使い過ぎればのちに響く。かといって手を抜けば順位が下がってしまう。
━━━ホント、性格が悪いっつーか何つーか……。
波動の源は精神。故に試験は精神に負荷、ストレスをかけた状態で行うのが望ましいと言うのが学院側の言い分だ。
その後、宗次郎が活強の腕を競う体力測定を行って一時休憩となる。ここで一次試験は終了だ。
生徒達はその場にへたり込む。だが気は休まらない。教師陣はその間に採点を行い、三分の一の生徒をここで落とすからだ。
夏に行われる卒業試験は春のそれと異なり、必須ではなく希望者が受験する。故に記念受験組も一定数存在する。そういった記念受験組と実力を発揮できない生徒がここで脱落する。
宗次郎は緊張した面持ちで試験結果の発表を見る。
━━━あった。自分の試験番号。
ほうと胸を撫で下ろす。自信があったとはいえ、緊張するものは緊張する。
宗次郎はそれから小規模の訓練場から三つある大規模訓練場に移動した。
訓練区画に存在する三つの大規模訓練場に集められた一万三千人近い生徒達。そのどれもが今すぐにでも八咫烏として採用できるほどの腕前を持っている。
つまりここからが試験の本番だ。
二次試験では卒業後の進学先によって試験内容が変わる。宗次郎の進路は燈が所属する波動犯罪捜査部。必然的に犯罪に対する内容となる。
今回行われるのは試験内容は犯人逮捕ならびに人質解放の試験だった。
どちらの試験も教師が選定した四人一組、八咫烏で組むチーム編成で挑む。
犯人逮捕は建物の中に逃げ込んだ犯人役の教師を捕まえる訓練。いかに素早く犯人を見つけ出し、いかに無傷で捕らえられるかを判定する。
人質解放は二人の犯人が一人の人質を取って建物に立て篭もった状況を想定し、人質を無傷で救出、かつ犯人を確保する試験だ。
チームの編成は教師が決める上、試験で使用される建物、また犯人役の教師は完全にランダム。自身の実力のみならず、協調性や運まで求められる。
━━━これを日付が変わってからやるっていうのかよ。
かつて戦場を駆け抜けた宗次郎をして、げんなりする内容だった。
大規模訓練場に集められると、まずチーム編成が発表された。
━━━頼むぞぉ。
試験内容もそうだが、誰と組むかももちろん重要だ。
宗次郎は柄にもなく、両手を擦り合わせながら祈った。
「第一五班、穂積宗次郎、四宮鏡、羽淵美緒、石動宏」
「おっ」
宗次郎は思わず声を上げた。
登校初日から話しかけてきてくれた鏡達と同じチームになるとは。幸運の女神はどうやら微笑むどころか花のような笑みを向けてくれているらしい。
班分けが終わると、出そうになるガッツポーズを堪えて宗次郎は鏡達と合流した。
「宗次郎さん、こんばんは」
「おっす。お疲れ〜」
鏡たちも疲労の様子が見えるが、
「この四人が同じ班になるなんて奇跡だよね〜」
「あぁ、全くだ」
この幸運のおかげで表情は明るくなっていた。
そのまま、試験会場である小規模訓練場がある区画に移動する。
「隊長は誰にする?」
「「「もちろん宗次郎で」」」
「息ぴったりかよ」
かくして、学院内にきたばかりの宗次郎が隊長となった。
━━━そういえば、人を率いるのは久しぶりだな。
千年前。妖との戦争では、それこそ万単位の軍を率いて戦ったこともある。それに比べればずっと楽だ。
「お互い頑張ろうな」
「おい鏡、宗次郎の足を引っ張るなよ」
「なっ、そういう宏こそ」
「も〜試験中だよ。もっと緊張感もとうよ」
いつも通りのやりとりに宗次郎の緊張感もほぐれる。
犯人逮捕の試験では三つの小規模訓練場を合わせた区画の中で行われる。宗次郎達の班が試験を受けるまでは、外で待機だ。
四人揃って試験が行われる区画にある建物を見ていた。
三つのうち、一つは運動場のように広い。だが隠れるには見晴らしが良すぎる。試験においては無視してもいいだろう。
残る二つは建物。背が高く、部屋の数も多い。隠れるとしたらどちらかだ。
「二人一組で各建物を攻略していく、って感じですかね」
「そうだな。メンバーは俺と鏡、美緒と宏でいいかな」
「賛成」
「問題ないっす」
「……」
「……」
流石に試験が近づくとなると口数が少なくなる。呼び出される生徒達の緊張感がもろに伝わって来るのがきつい。
「あ〜、やっぱ緊張するな」
宗次郎がぼそっとつぶやくと鏡たち三人がギョッとしていた。
「どうかしたか?」
「いや、筆記試験ならともかく、実技試験で宗次郎さんが緊張するのは意外だなって」
「筆記試験ならともかくって何だよ」
宗次郎は苦笑しながら続ける。
「俺だって人間だぜ。緊張したりするさ。でも自信がないわけじゃないぜ」
「そうなんですか?」
「あぁ。だって━━━」
宗次郎は鏡、美緒、宏の三人を見て行った。
「この四人が一緒なら、何とかなるだろ」
宗次郎が笑うと、三人の緊張が少し緩和された。
「次、第一五班!」
さ、いよいよだ。
宗次郎達は気合を入れて立ち上がる。
「お前たちの相手は正武家教員だ」
「げ」
対戦相手の名前を聞いて宏が露骨に嫌そうな顔をする。
元波動犯罪捜査部が相手となるとかなり厳しい。四人がそう考えたと同時。
ドン、という腹に響く爆発音が響いた。
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