第四章 第十六話 初登庁 その1


 波動庁。皇王国において波動に関する全てを取り扱っている国家機関である。


 メディアが取り上げることは少ないので国民の認識は偏りがちだが、その仕事は多岐にわたる。波動師、波動具の管理。波動具の開発。波動師の教育も司っているので、宗次郎が受ける卒業試験の内容もここで決まる。


 ただやはり、妖の討伐と軍務を預かる討妖局、波動犯罪を取り締まる波動犯罪捜査部の二つが多くの比重を占めている。波動庁の施設八割以上が二つの内部組織で占められていることからも明らかだ。


 討妖局は文字通り妖に対抗するための部署であり、その歴史は皇王国建国の頃からある。天修羅を倒し、妖を大陸から追い出した皇大地の軍が中心となり、波動庁が創設された。以来、大陸の平和を守っている。


 対して波動犯罪捜査部。通称波捜部は三百年ほど前に討妖局から独立して生まれた組織だ。増加する波動犯罪の抑止のため、ときの国王が創設を命じたのだ。


 増加するだけでなく複雑化する波動犯罪に対抗するため、小さなものから大きなものまで全体的に取り扱っている。国民の安全を守るための第二の牙と言えた。


「♪♪」


 その波捜部に割り当てたれた庁舎の廊下を鼻歌交じりに歩く男が一人。クセのある茶髪にスラリとした体つき。手には大きなトパーズが埋め込まれた錫杖を手にし、服装は八咫烏のそれだ。軽薄そうな雰囲気ながらその顔つきは人を惹きつける魅力に溢れている。


 その証拠にすれ違う職員から必ず挨拶をされている。


「ここだね」


 軽薄な足取りのまま、部長室と書かれた部屋をノックする。


 すると、入ってこい、と中から初老の男性の声がする。


「失礼しまっす」


 軽い口調で入室すると、両脇を書類棚に囲まれた部屋の奥に座る男性と目があった。


 母良田巌。年齢は六十を超えながら十二神将の最古参であり、波動犯罪捜査部の部長を務めている男だった。


「待っていたぞ。雲丹亀玄静」


 巌はニヤリと笑い、男の名前を読んだのだった。

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