第三部 第八話 国王との謁見 その1

 大皇城の廊下は外に面しており、石が敷き詰められた庭が見渡せる。柱と手すりは朱く染まっており、一本一本が輝きを放っていた。反対側には王国各地の風景が描かれた襖がずらりと並んでいる。天井を見上げれば人が一人入れそうなほど巨大な提灯が一定間隔で並んでいる。




 精緻な芸術品のようで、時間があればじっくり眺めたいが、そうはいかない。前を歩く燈とはぐれたら宗次郎は迷子だ。




 神秘的な光景に目を奪われながら歩くこと数分。開かれた大きな襖があった。




 ━━━あそこか。




 宗次郎は自然に気が引き締まった。




 襖から中に入ると、そこは謁見の間だった。




「あれが穂積宗次郎か……」




「波動を暴走させ、行方をくらませたという」




「腰に穿いているのが天斬剣か」




「皐月杯での戦いぶり、なかなかのものでしたな」




 やはりというべきか、控えていた群臣の視線は初めて王城にきた宗次郎に集中した。




 ある者は純粋な興味を。ある者は疑いを。ある者は侮蔑を。




 視線を意識すると緊張でどうにかなってしまいそうな宗次郎は、あえて無視するかのように謁見の間を見渡した。




 廊下に立っていたものの倍はある朱塗りの柱が規則正しく並んでいる。欄干には鳳凰と竜の彫刻が舞っており、天井にはこれまた巨大な提灯。中庭が見通せる作りになっていて、部屋の奥からは日差しと風を感じる。




 先頭は燈、その後ろに宗次郎と玄静が並んで立ち止まる。




 三人の前には、六大貴族の当主が座る席と十二神将が座る席が二列に並んでいた。




 集まっている群臣とは対照的に空席が目立つ。




 ━━━国王は……まだ来ていないか。




 時間の波動を持つ宗次郎は波動の加護により、時間を正確に測れる。現時刻がちょうど国王に謁見する予定の時間だ。




 空席の玉座は黄金を主体に作られており、両脇には香が炊かれている。奥にある襖には神々しい八咫烏が十二羽描かれていた。




 それも、国王を守るように。




 ━━━初代十二神将がモチーフなのか。




 皇王国を建国した初代国王、皇大地。彼のもとに集った名だたる波動師十二名が、現在の十二神将制度の元となっている。




 天斬剣を持つ最強の波動師とされた初代王の剣。穂積宗次郎。




 地形を読み、動かす陸震杖を持つ最高の軍師。雲丹亀壕。




 風の波動を操り、大地の危機を救いながらも命を落とした術師。猿喰時雨。




 雷の波動と示現流、居合を組み合わせた鬼才。和田甚助。




 他にも優秀な波動師が多く集まったからこそ、大地と宗次郎は天修羅を倒し、大陸に平和をもたらすことができたのだ。




 この城ができたのは建国して十年ほど立ってから。宗次郎は天修羅を討伐してすぐに眠りについたので、それ以外のメンツはここで会議をしていた可能性は高い。




 ━━━あの椅子の上に大地が座っていたんだなぁ。




 一番の親友にしてかつての主、皇大地が玉座の上で、他の仲間達と会話をしていた空想をする。




 その光景は、なんというか━━━




「……」




 宗次郎は周囲に気づかれない程度に体をくの字に曲げ、笑った。




 『誰もが幸せに暮らせる国を作る』という大地の夢は知っているし、応援もしていた。




 ただ、いざ自分の親友が玉座に座りあれこれ指示を出しているところを想像すると、つい笑ってしまう宗次郎だった。




「皆の者! 拝礼! 国王陛下の御入殿である!」




 ━━━やっべ。




 進行を務める貴族の声に、宗次郎は意識を集中させる。




 目の前に立っていた燈が片膝をついて平伏する。少し遅れて玄静と宗次郎も同じようにした。




 スタスタ、と歩く音がして、続いてギィと玉座の軋みが聞こえた。




「面を上げよ」




 玉座から聞こえてきたのは、朗らかな声を無理やり仰々しくさせた声だった。




 顔を上げると、宗次郎は国王と目があった。




 年齢は四十代後半らしいが、混じった白髪と白い髭のせいで老けて見える。金が各所に散りばめられた衣装と相まって最高権力者の威厳を感じさせるが、宗次郎はどこか違和感を覚えた。




 ━━━綺麗な目だなー。




 その輝きは、小さな宝石にあらん限りの思いやりを詰め込んだよう。相手を慈しむような表情といい、相手に安心感を与える。それでいて、どこか子供のように無邪気だ。




 ━━━こりゃ、燈のいう通りかもしれないな。




 こうして、宗次郎達は国王との謁見を始めた。

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