◆富田林11◆ どんなお付き合いがしたい?

 とにもかくにも少々悲しい経緯で手に入った和山わやま一颯いっさの情報である。


 まず、家族構成は父、母、弟の四人家族。弟君は年が離れてて小学四年生、なかなか生意気盛りらしいのだが、これだけ離れていればちょっとした反抗もただただ可愛いだけらしい。ちなみに名前は『詩季しき』君。『いっさ』に『しき』ねぇ。ご両親は俳句か何かやってらっしゃるのかしら。小林一茶と正岡子規から取ってたりとか。まぁ良いけど。


 それで、恋愛歴と趣味嗜好だけど、まぁ、予想通りというかなんというか、とにかくモテる男だった。なんていうかね、わかるのよ。バスケ部ってモテる。何でかわからないけどモテるの。だからもしかしたらあの狐野郎も映研じゃなくてバスケ部だったら、いまとは違う未来だったかもしれないわね。


 顔もまぁ『THEスポーツマン』って感じの爽やか男子だし、背も高いし、それでバスケ部。こう言っちゃなんだけど、余程性格に問題がなければモテるだろう。


 というあたしの読み通り、和山はやはりそこそこモテるようである。校外でデートするような関係になれば補欠なんてそう大した問題ではないのだ。何せ、長身の爽やかスポーツマンである。そりゃあレギュラーなら校内でもデカい顔が出来るんだろうけど。なんてそんな風に思うのはちょっと意地悪かしらね。


「オレが聞いた話では、前の学校でも彼女は三人くらいいたらしい。さすがに二股とかはないって話だし、いまは誰とも付き合ってねぇみたいだけど」

「前の学校で三人って、一年の時に三人ってことでしょ? 随分なモテ男ね。それは? 向こうから告白されてお付き合いが始まる感じ?」

「みたいだな。まぁ、モテるやつだから。そんで、相手から振られるんだと。付き合ってみたら何か違ったって言われるらしくて」

「何か違った?」

「和山が言うには、もっとベタベタイチャイチャしたかったらしくてさ、相手の方が。あとは、デートももっと良いところに行きたがったりとか、その分の金も出してほしかったとかな。馬ッ鹿じゃねぇの。オレら、高校生だぞ? ましてや和山は部活あるからバイトだって出来ねぇのに、何でもかんでも奢れるような金はねぇって」

「成る程ねぇ」

「なんかな、そっちの学校――まぁウチもだけど、一部の女子は年上と付き合ってんだよ。大学生とか、下手したら社会人と。大学生はまだしも社会人なんて大丈夫なのかね、色々と。ま、知らねぇけど。でもさ、そうなるとやっぱりデートの内容とかも高校生のガキとは違うんだよな。全奢りだし、食事もこういうファミレスじゃねぇし、プレゼントもブランドの何かだぜ?」


 そりゃあ周りにそんな友達がいたら、私も! なんて思うんじゃね?


 つまらなそうに言い、冷めてしなしなになったポテトを口に運ぶ。


「アンタは? どうなの?」

「は? オレ?」

「例えば和山と付き合えたとして、よ。アンタはどういうお付き合いがしたいわけ?」

「どういうお付き合い、って言われるとなぁ」

「和山は、その歴代の彼女達に、思ってたのと違った、みたいな感じで振られてるわけじゃない? つまりは、そんなにベタベタイチャイチャしたいわけでもないし、まぁ仕方ないことだけど、デートの軍資金も乏しいわけよね。だからまぁ、その大人デートと比較すればどうしたって慎ましやかな内容になるわけじゃない? そもそも部活があるわけだし、デートだってそんなに出来ないかもしれないわよ?」


 高校生の恋愛は難しい。

 個人的にあたしはそう思っている。

 学生としての本分もある、部活もある、バイトをしてる人もいる。その他にもやりたいことはたくさんある。それらをこなすだけの体力はある。ただ、どれもこれも全力でやろうと思えば、恋愛の入る隙間はわずかだ。だけどあたし達には、その隙間をこじ開けて、自分の身体を滑り込ませて、ぐいぐいと押し広げる、それだけの力もある。


 でも、そこまで全方向に全力で欲張れる人間なんてそうそういない。だから、何かがおろそかになる。大抵は学力が落ちる。学生なのに、最初に身に入らなくなるのは、そこだったりするのだ。


「まぁ、別にデートなんてのはさ、出来りゃ良いけど、って感じだな。わかってると思うけど、オレ、家の手伝いバイトあるし」

「ほぉん?」

和山アイツの試合観に行くとかさ、応援席で彼女面させてもらえりゃそれで良いかなって。あっ、でも、弁当とかは無理だぞ、オレ。料理まーったく出来ねぇから」

「うん、まぁ、そこは想定内ではあるけど。ふぅん、そうなの。へぇ」


 うん、まぁ、そういう方が合ってるのかもしれないわね、和山こいつの場合。とすると、お付き合い後の問題はないわね。てことは、どうにかくっつければ良いわけよ。


「じゃ、あとは? 趣味嗜好。どういう子が好きかとか」


 食べ終えたポテトの皿を隅に避け、身を乗り出す。すると、小暮は、ぐぎぎ、と歯を食い縛って、何とも言えない顔をした。


「それがっ、問題なんだよなぁっ……!」


 ぎゅっと固く握った拳をテーブルの上に置き、ふるふると震える。


「な、何よ。何その顔」


 あまりの鬼気迫る表情に、思わず身を引く。


「和山の好きなタイプ、オレと……っ! まっっっったくの逆なんだよ!」

「全くの逆? どういうこと?」

 

 そんな部活命のスポーツマンならむしろアンタみたいなボーイッシュ(すぎるけど)女子が好きだったりしない? あっ、でも、そこまで部活命とは聞いてないか。


「ちっちゃくて、ふわふわで、華奢で、守ってあげたくなるような妹みたいなのが好きらしいんだ。髪もオレみたいなショートじゃなくて、短くても肩くらいまであって、そんで、普段は、えっとなんだっけ、何とかっつートコの甘めワンピなんっつーのを着てるようなのが好きなんだってよ!」

「あ、あらぁ……」


 とりあえず、その『何とかっつートコの甘めワンピ』だけがよくわからないけど、まぁ、うん、だいたいわかったわ。確かにアンタとは180度違うわね。

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